風が、吹いた




―なんだか、この状況、前にもあったな。




ふいに、大晦日のことが、頭をよぎった。



椎名先輩は1日だけ、それだけを取っておいて。あとは、私に全部合わせてくれた。




優しいから、だろうか。




それだけ、なんだろうか。



考えることをやめた領域に行ってしまいそうになって、私はそこで思考をストップさせた。




「佐伯さんの所は、今回、お休みさせてもらおうとは思ってて…でも…先輩が、忙しくなかったら、私は、会いたいんだけど」




最後の方は、段々恥ずかしくなって、声が小さくなる。




「あー、良かった」




安心したように、彼は胸に手をあてて、息を吐いた。



「そうだねって言われたら、どうしようかと思った。」




そう言うと、屈託なく笑った。




バスが停留所に着くと、手を取られて、2人掛けの席に座った。



中と外の気温差で、曇るガラスに先輩が。




[すきだよ]




と書くもんだから、他の人に見られないか恥ずかしくなって、慌てて手の甲で消した。



真っ赤になる私を見て、彼は笑った。



その顔に、少しの痛みが含まれていたのを、私は見逃した。