「浅尾、何?」
渡り廊下を除いては、死角になるこの中庭に、あまり人が来ることはない。
私自身、ここに来るのは入学以来初めてのことだった。
寒い季節のせいか、殺風景なこの場所に、長く居たいとは思わなかった。
くるりと振り返ると、浅尾が、はっきりと私を見つめて、言った。
「俺さ、お前のことが好きなんだよ」
頭の中で、言われた言葉を何度反芻してみても、飲み込むことができず、固まった。
「…返事は、今はいらない」
そんな私の反応を知ってか知らずか、浅尾は続ける。
「お前が、椎名先輩のこと好きなのは知ってる。今言うことがずるいのもわかってる。」
だけど、と一瞬目を伏せた。
「でも、多分…後で言った方が、もっとフェアじゃない」
熱の籠もる眼差しをゆっくりと私にぶつけて、そう言った。
「お前が誰を見てようが、それごと、受け止めるから。寄っ掛かる相手でいいから」
目を見開いたまま、少しも動けないでいる私の横を、通り過ぎながら、
「だから、考えて」
と耳打ちして、彼は去って行った。


