風が、吹いた


「椎名先輩…」




慌てて階段を転げ落ちるように降りて、目の前に立った。




「久しぶりだね」




本物だ。




真っ黒なコートを着て、停めた自転車によっかかる椎名先輩は、自分が思ってたよりも元気そうに見えた。



嬉しさの余りに、ただただ見つめていると、



急に視界が真っ暗になった。





冷たいコートの感触が、ダイレクトに頬に伝わる。




「会いたかった…」




ぎゅっと抱き締められて、呟かれた彼の言葉は、私の言葉でもあった。




下がる自分の手を上げて、先輩の背中に回した。



彼の鼓動が早くなっているのを感じながら、涙が零れた。




「ごめんね」




ぽんぽんと優しく、頭を撫でる、その仕草がさらに涙腺を緩くする。