風が、吹いた





「よろしく…お願いします。」




彼は、少し驚いた顔をしたが、すぐに真顔を取り戻そうと努めたようだった。



が、含み笑いが消えない。


反対に、私は無愛想さを増した。




「…名前を…」




自分は、なんて憐れなんだろうと、自身を慰めつつ、それでも仕事をしようと思った。




「椎名 孝一です。」




渡された履歴書を眺めながら、どうしてこんなお坊ちゃんが、バイトなんてするのと首を傾げた。



小中はエスカレーター式の有名私立校。確か高校もあったはずだが、彼は今、私と同じ公立高校に通っている。



住所を見ると、森の近くの住宅街にあるようだ。



あの周辺は高級住宅地。



ますます首を傾げたくなる。