風が、吹いた


カランカラン



金のベルの音が、する。




「いらっしゃいませ」




落ち着いた店主の声も、する。




「急ですみませんでした。今日はよろしくお願いします。」




幹事らしき女の人の声も、聴こえる。



でも、それ以上に。




私の心臓の音が、うるさい。





ー椎名先輩が、自転車に乗ってこなかった?



制服で、来た?



絶対、変だ。



ぼんやりしていた記憶が、少しずつ輪郭を現す。




―千晶?大丈夫?




―困ったな。





そんな呟きを耳にしながら、あの日、私は自分が掴んでいるものを、放さなかった気がする。




―タクシー呼ぼうかな。荷物と制服、どうしようか。



そうそう、あの時私はジャージのままだった。何も持っていなくって・・・



そういえば家に私のジャージもあった…




あれ。タクシー?…