風が、吹いた


紅茶の種類も豊富な佐伯さんの店道具は抜かりないようだ。




「紅茶なら、俺淹れましょうか。」




椎名先輩が、手を軽く上げる。




「…そうだね。僕もこっちで手一杯だろうし、コーヒーの淹れ方と紅茶の淹れ方は全然違うから。お願いしようかな。孝一くんは、上手だしね。」




知っているような口ぶりで佐伯さんが言った。



もしかしたら、私が知らない所で、先輩が淹れてあげたことがあったのかもしれない。



1人で勝手に解釈して、納得する。



やがて佐伯さんが腕時計を確認したのに気づき、私も店内の時計に目をやった。



時刻は16時40分。



そろそろ、予約客が来る頃だ。





「そういえば」




準備が終わり、あとは来店を待つだけの、ぽっかり空いた落ち着かない時間。



佐伯さんが私の隣に来て、思い出したように声を掛けた。




「千晶、体調は大丈夫なの?」




「はい。おかげさまで。バイト休んじゃってご迷惑おかけしました。」




つい、謝ると。




「そんなつもりで言ったんじゃないよ。」




と佐伯さんが困ったように笑った。




「それに、千晶の分は、孝一君が出てくれたから」




「ーえ?」


その話は、初耳だ。