風が、吹いた


自力で帰った記憶はない。


叔母は学校まで迎えに来てくれたわけではない。



でも、誰かが、私を家まで送り、着替えさせて、寝かせてくれているはずなのだ。



制服は綺麗にハンガーに掛けられていた。



最後に話していたのは、椎名先輩なのだから、椎名先輩に訊けばきっとわかるだろうと思っていたのだが。



『あのあと、三城先生が来たから、任せて俺は授業に戻ったよ』




3日ほど学校とバイトを休んだ後、尋ねた私に、そう答えたのだ。




「んーーー、思い出せない…」




両方の人差し指で、頭のこめかみの辺りをぐりぐりと押してみても、出てこないものは出てこない。





そんなわけで。


叔母に迷惑をかけたことを謝罪し、帰ってもらったあの時から、私は悶々とした日々を過ごしていた。



久々に会った叔母のこともあって、気疲れが半端ではなかったし。




もしかしたら、吉井かも、と万が一を考えて、訊いてみたけれど。



「なにそれーいいねぇ」




とか言っただけで話にならず。



ーあー全然わかんないや…




考え疲れて、瞼を閉じる。




額だけが、置かれた手の感触を覚えている。




ひやりとしたその手の平を。