風が、吹いた


「でも安易に決めつけるのはどうかと思うよ。」




シャーペンを片手に玩(もてあそ)びながら、言ってはみたものの。




「あの自己中な浅尾が好きでもない人のために動くとは到底考えられない」




と言う吉井の物言いに、若干気圧される。




「席着けー出席とるぞー」



鐘の音と共に、小澤が教室に入ってきた事で、話はそこまでとなった。




ー恋愛、か。



ぼんやりと席で一人、物思いに耽る。


やっと友達ができたような所で、恋愛なんて話は、ハードルが高すぎる。




むしろ、どうせ別れてしまうのなら。




ずっと友達で居る方が、いいんじゃないだろうか。




そんなことを考えていると、視界の脇に、小澤が、例の小テストを配り始めているのが映る。




『人間は忘れる生き物だから生きていけるんだろうが』




急に、その言葉を思い出して、笑いを堪えるのが大変になり。



隣の吉井の痛いものを見るような視線に気付き、直ぐに冷静さを取り戻して、テストに集中した。