「いただきます」
そう言って口の中に含んだ紅茶は驚くほど美味しくて甘く温かく広がる。
「先輩、紅茶淹れるの上手ですね。」
「ありがとう」
ーなんだか…この寛いだ空間…知ってる気がする。
あ。
そうか、佐伯さんのカフェだ。
だからこんなに落ち着くのか。
「いいなぁ。この家。家賃とかって、高そう…」
ぽそっと呟くと、先輩は自分のカップから紅茶を一口飲みながら、ううんと首を振る。
「それが、破格なんだなぁ。大家さんが良い人で。俺お金もないからさー」
「え、もしかして、自分で払ってるんですか?」
ソーサーにカップを戻した彼は、今度はうんと頷く。
「さっき言ったでしょ。俺、何も持たずにでてきたの。だから、自分で働いて、自分を養ってるわけ。」
「でも…」
訊いていいだろうか。
「先輩、有名な私立通ってたのに」
先輩の家は、きっと裕福なはずなのに。
彼は家出をしてきたんだろうか。


