風が、吹いた



「わ、いい匂い…」



「勝手に、人物像だけ、できてくんだよ。俺は何も特別な人間じゃない。」




思わず呟いたと同時に、先輩が吐き捨てるようにそう言った。




「…え、と…」



さっきの話の続きだとわかっても、いつもと違う様子に、私は戸惑いを隠せない。




「ーごめん。」




そんな私を見て、はっとしたような表情をすると、罰が悪そうに先輩が呟いた。




「俺、何も持ってないよ。何も持たずに、出てきたんだから。」



そうして寂しげに笑う。




蒸らし時間を過ぎ、先輩がカップに紅茶を注ぐ。



カチャという音をたてて、湯気のたつカップとソーサーが、目の前に置かれた。




「どうぞ」




そう言うと、先輩は向かいの椅子に座った。