一人暮しの私に赤ちゃんなんているわけがない。


誰が、私みたいな田舎者と付き合うだろうか。


これはきっと誰か別の人に上げるためにここにあるんだ…忘れているだけ…そのヒントを部屋から探す。


伏せられた写真立て…誰の写真?


埃を被った黒いゲーム機…誰と遊ぶの?


テーブルに置かれた灰皿に盛られた吸い殻の山…誰が吸ったの?


誰かと夜釣りに出かけた記憶…貴方は誰なの?


思い詰めた表情の貴方は私に言った…何を言ったの?


私が余計な事言ったから?


もう…堕ろしたくないと私は言った。


もう…間に合わないとも貴方に告げた。


もう…ひとりは嫌だと貴方に告げた。


私の名前は明日香…ひとりぼっちの昨日より、ふたりの明日を選んだの。


その時…私の中で何かがカチリと繋がった。




こんな私を好きになってくれたのは貴方だけ。


私は3番目。


貴方の3番目に大事な存在でしょ。


奥さんと子供の次でも構わない。


好きでいてくれるなら。




しばらく来なかった貴方が悪いの。


勤めてた会社も、
教えられた住所も嘘だったし…。


携帯電話は解約され、貴方に繋がる物は何ひとつなかった。


私は捨てられるの?


何度も銀行で押したじゃない。


4桁の暗証番号。


『ちょっと用立ててくれ?』


結婚してるとなかなか自由に使えるお金は少ない。


お小遣は月一万円。


これじゃあ、飲みにも行けないね。


そうね。


2万、3万…時には10万。


貴方を縛るのは私の愛だけだと思ってた…何百万なんて大金だったら信用なんかしない。


みなごろ…。


みなごろ…。


私は呪文のように4桁の暗証番号を入力した。


『少し夜風にあたろうか?』


冷えると体に障るからって…去年二人で使った寝袋と毛布を持って夜釣りに行ったのね。

暑さで溶けるんじゃないわね。


だって…ずきずきと頭が割れるように痛むのはきっと…。