しかし、私は、私を捨てた母を憎んではいない。



逆に、母のおかげで監察官に捕らえられずに済んだのだから、感謝すべきだと思っている。





しかし、母は私を保護場のような所には入れていかなかった。




母は、ただただ広いだけの家と、補助金の申込用紙と、ありきたりのお金を置いていった。






5歳の私に、申込用紙など書けるわけないというのに。




5歳の私に、人に世話を頼む勇気などあるわけないというのに。




5歳の私に、広いだけで誰もいない家など、苦痛でしかないというのに。








――家がないよりも、苦痛でしかないというのに。






やっぱり私を保護場のようなところに入れてくれた方がまだましだったと、今さらだが思うときがあるのだった。