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「……はっ!?誰かがあたしを呼んでいる気がする!!」


そう言って手に小銭入れを持った早咲が勢い良く立ち上がった。その視線は教室の出口の方を向いていて、表情も珍しく真剣味を帯びている。


この幼なじみの突発的な行動はいつものことで、潮と流麗はそれぞれお弁当を用意する。お昼休みの教室で、幼なじみ四人はいつものように机を付き合わせていた。


「何が聞こえてるんだ、はーのん!!」


ガタッと立ち上がり、同じく真剣味を帯びた声音で言ったのはキラちゃんこと光。黒縁メガネがあまりにも似合わないのだが、この黒縁メガネには彼女なりの理由がある。


やれやれ始まった、と最早呆れるのはホッシーこと流麗。
その横ではうーちゃんこと潮がゴソゴソと鞄を探っている。早咲と光のことは完全に無視である。


「あのね、キラちゃん。……あっちの方から『はーのん来て来てはーのん!』て聞こえるのっ!!」


「なにぃ!!?はーのん、あっちの方に何があるってんだ!??」


「わ、分からにゃい…。これはもう、行くしかないのかな…?」


「一人でなんて行かせられっか!!僕が付いて行くぜ、はーのん!」


「……ううっ…、ありやとぉ…。」


手を取り合う二人を、冷めた視線で一瞥した流麗。よく見なくても、早咲と光の手にはそれぞれ小銭入れが。
しかも、そのデザインがまた斬新。


早咲のは桃。しかも、リアルな桃だ。
がま口の所に葉っぱが付いていなければお尻に見えるであろうその小銭入れ。
しかも早咲はこれを、お尻だと思って買ったらしい。


葉っぱの生えたお尻、と言って騒いでいた早咲は今だにそう思っている。
そして光のは、使い古した感じのするもので、彼女の片手で無造作に握られている。


だが、その絵柄は人の顔。しかも男の人である。
光に聞かずともそれが誰なのか分かるのが辛い。しかも流麗は、この人顔の小銭入れを五つも持っている。