口の悪い、彼は。

 

「……それ、本気で言ってんのか?」

「本気も本気です!一瞬たりとも、恋愛対象とすら見たことありません!」

「……ふぅん。じゃあ、何の問題もねぇってことか。何だよまったく」

「?」


納得した様子で部長がベンチの背から身体を離し、私のことを見てくる。


「高橋」

「はい」

「お前、俺の女になるか?」

「…………はい?」


何ですって?

部長から発せられたらしい言葉をたっぷり時間を掛けて理解しようとしたけどできなくて、私はカクンと首を傾げる。

……俺の、女……?


「はぁ。本当にお前は話を聞かないな」

「い、いや、だって……、何か今……“俺の女になるか”って聞こえた気が……。って、部長には彼女さんがいるのに変なこと言ってますよね。すみません。何の空耳でしょうかね……ははっ」


本当に私の耳はおかしくなってしまったようだ。

夢にも出てこないようなセリフが聞こえてしまった気がしたのだから。

勝手な妄想だとしても甚だ図々しい。

その証拠に部長も完全に呆れ顔だ。


「……はぁ。まったく。もう一度だけ言うからちゃんと聞いとけよ」

「あ、すみません……」

「俺のことを知りたいなら俺の女になれ。そしたら、お前が知りたいことを一から全部教えてやるよ」

「……。」


私は部長の言葉に完全にフリーズしてしまった。

その理由はものすごく簡単なこと。

やっぱり確実に部長の口から「俺の女になれ」という言葉が出てきたからだ。

空耳とか妄想とかのはずだった言葉と同じもの。