口の悪い、彼は。

 

手を洗いに行くついでにトイレも済まし、オフィスへの帰りの途中で喫煙室を覗いてみると、予想通り部長はそこにいた。

長時間休憩をしてサボる人がいないようにとガラス張りになっている喫煙室には、部長以外は誰もおらず、部長は一人煙草を吸っている。

スタイリッシュな黒いスーツ、真っ白なピシッとしたYシャツにはシンプルなグレーにラインの入ったネクタイ、スラックスの裾からは綺麗に磨かれて黒光りする先の少し尖った靴、たまに袖から覗く腕時計。

整髪料で整えられた髪の毛ときりっと整った表情、落ち着いた雰囲気からは大人のできる男を思わせる。

長い指で煙草挟んで口元に当てて吸い、薄目の唇を薄く開けて紫煙を吐き出す。

まるでドラマや映画のような光景に、私の心臓がドキンと音をたてた。

……ズルいよなぁ。あんなにカッコいいなんて。

未だに大学生に見られてしまうような子どもっぽい私なんかには絶対に手が届くことのないオトナの男。

その存在がそこにあるだけで女を魅惑的する男。

……口は悪いし基本的には優しいとは思えないけど、それはきっと言葉が足りないだけで。

本当は……たぶん優しさも持っているんだと思う。

……たぶん。

ずっと前に残業した時も、何だかんだで一緒に残ってくれていたんだと思うから。

……たぶん、それは部長の優しさ……なんだと思う。

たぶん。

“たぶん”がいくつも付いて、『優しさ』が予想でしかないとしても、そんな男に惹かれないわけないんだ。

いつかの大学時代の友達とした女子会で部長の話をした時、友達はみんな、「そんな男、いくらカッコ良くても絶対に付き合いたくない!」と言っていたことを考えると、もしかしたら私は男の趣味が変わっているのかもしれないけど、好きという事実は変わることはない。

そんなことを思いながら、私は部長から目を離せないでいた。

何だか時間が止まってしまったように部長のことを見つめていると、その瞳がふと私の姿を捕らえた。