「……く、くださるんですか?」
「そうだと言ってる。高橋、おまえは話を聞かないな。難しいことを言ってるわけじゃないんだから、一度で理解しろ」
「う……はい。すみません」
私は恐る恐る部長の左手の上に乗った饅頭に手を伸ばす。
部長の手首にはCLO×CLOの腕時計がはめられていて、ステンレス製のそれはすごくスタイリッシュなデザインのもので部長によく似合っていると思った。
これって確か、クラシカルタイプの……CCT0099だっけ?
そこそこ値段が高い製品だった気がするけど、それを着けこなしているなんて、さすが部長だ。
それに、部長の骨張った大きな手は大人の男を感じさせて、何だかドキドキしてしまう。
よくわからない感情を抱きながら、私は饅頭を手に取った。
「ありがとうございます」
そう言った瞬間、今まで忘れていたかのように静かだった私のお腹がぐぅぅと音をたて、オフィス内に響いた。
「っ!!」
私は慌ててお腹を押さえる。
仕事を終えてほっとしたことと、目の前にある饅頭によって、お腹がすいているということを脳が思い出したらしい。
「……ふ」
「へっ?」
「……腹減ってんなら、早く食え」
「っ、すみません……!」
一瞬笑い声が聞こえた気がして部長のことを見たけど、そこには笑顔はなく、呆れたような表情があった。
恥ずかしすぎる……!
穴があったら、今すぐ飛び込んでしまいたい!
顔が熱くなるのを感じながら、部長の言うことに逆らうまいと饅頭の包みをかさっと開ける。
そして「いただきます!」と言って、ぱくりと一口かじった。

