口の悪い、彼は。

 

15分ほどで部長がオフィスに戻ってきた時には私は打ち込みを終えて、打ち込んだデータのチェックをしていた。

すると出てくる出てくる、タイプミスが。

入社して2ヶ月でタイピングには慣れたと思っていたけど、まだまだ慣れていないんだな、と少し落ち込んだ。



ちまちまとしたミスを修正し終わって、何とか1時間が経つ前に仕事を終わらせることができた私は、ふぅ、と息をつく。

時間内に終わって良かった……。

時間に怯える緊張感なんて、大学の時の試験の時以来だよ……。はぁ。

肩の力を少しだけ抜き、バラバラになった伝票をまとめていると、視界の端っこに部長が立ち上がる姿が映った。

反射的にビクッと身体を震わせてしまって部長に目線をはっと移すと、部長が私の方に向かってきていて、私は伝票を手に持ったまま固まってしまった。

身長が高く細身に見えて意外とがっしりしている体型の部長が近付けば近付くほど、そのオーラとも相まって迫力が倍増する気がする。

動くことも言葉を発することもできないまま、部長との距離が1メートルまで近付いてしまった。

な、何なの……っ?怒られる……?

部長は足を止めたかと思えば、私のことをじっと見下ろしてくる。

そして、長い手が私の目の前に伸びてきて、私は殴られてしまうのかと思い、目をぎゅっと閉じた。


「ひゃ……っ!」

「食え。」

「へっ?」


痛みを感じず、部長から発せられた思わぬ言葉に私は部長のことをぱっと見上げると、そこには部長の手にちょこんと乗せられた一口サイズくらいの饅頭があった。

私はきょとんと部長の顔を見上げる。


「ほら、早くしろ」


つまり……この饅頭を私にくれるってこと?

いや、でもこの部長がそんな行動すると思えないんだけど……。

単純な考えで饅頭を受け取って怒られてしまうのが怖くて、私は部長の顔色を窺いながら疑問を投げ掛ける。