私、何しているんだろう?




八木邸で芹沢さんとくつろぎながら ふと湧き出たこの思い。







あれから一週間。


あっという間に時間が経った。





まだ、雨は降り続けている。


藤堂の人格が元に戻らない日々も続いていた。



だから詩織は八木邸にお世話になっている。






あの後は 『八木邸にお世話になります』なんて下手に言ってしまったものだから、盛大に土方に怒鳴られ、怒られた。


それでもなんとか詩織が八木邸にお世話になることに納得してもらった。




それは単に 藤堂と詩織が同じ空間で過ごすことに無理があると理解したからだろう。


だからか 土方は しぶしぶとだったが。





だが 八木邸にお世話になれるのなら それはそれで良かった。






何故なら 詩織は 芹沢にこれから訪れる未来を少しでも良くできるように動こうと思っていたからだ。



それならば少しでも芹沢の近くにいたほうが良かろう。









だが、解せぬ。







「沖田さんと永倉さんは暇なんですか...?
暇すぎるのですか!?」



沖田は座っている詩織に背後から覆いかぶさってニコニコとしており、永倉は永倉で詩織の太ももに頭を乗せ優雅に睡眠タイムといったようだ。



芹沢がソレを、詩織たちを愛おしいものを見るように見守っていることがそもそもおかしい。



「芹沢さんも微笑んでいないで この二人を追い出してください!」



思わず詩織がそう叫んでしまったのも 無理はない。




詩織が この八木邸に来てから一週間、二人は飽きもせず 毎日遊びに来ていたからだ。






いや、もう一人いた。



今、詩織たちがいる部屋に入ろうとしている者。



「おーい」


「定員オーバーです、お帰りください」


「『おぉばぁ』ってなんだ?」


「私が悪かったですね、気にしないでください。
それよりブルータスは早く帰ってください」


「ぶるぅたす?」


「......これも私が悪かったですね。
未来では『裏切り者』という代名詞のような人物ですよ。
とにかく斎藤さんの居場所は無いので、さっさとお帰りください」


「そりゃひでぇな」



苦笑いで詩織たちのいる部屋にやってきたのは 斎藤。


我が物顔で詩織の隣にドテッと座る。




「お主は好かれているな」


その様子を見て 芹沢が羨ましそうに詩織に言った。


ムッとして詩織は口をとがらせる。



「ではこの方たちを引き取ってくださいよー
私、意外と暇じゃないんですからねー」


「暇だろ」


「暇しかないでしょ」


「暇でないと言うなら何をするつもりだ?」



一斉にフルボッコ。



斎藤の発言に せめてもの詩織の反論はといえば...



「そ、それは洗濯を手伝ったり」


「雨が降っているのに、ですか?」



沖田にツッコまれ



「なら、世界を変えたり」


「アホか?」



永倉には呆れられ



「あとは、幼女と話したり」


「...」



全員に冷たい視線を送られ



「最後に ゴロゴロと横になったり」


「わしらの方が忙しいな...」



芹沢には ため息を吐かれ 散々だった。



「もう!なんなんですか!」


「それはこっちのセリフだ!」



永倉がムクッと起き上がり、詩織にツッコんだ。


そしてユラリと立ち上がり詩織を見下ろしながら 口を開く。


「おまえは黙って俺の枕になっていればいいんだよ!」


「しっつれいですね!
私に人権ってものはないんですか!?」


「ねぇよ、んなもん」



最低な発言を続ける永倉に、泣きかける詩織。


目に涙をため、今にも こぼれ落ちそう。


しかも 永倉を見上げているから 自然と上目遣いになる。



そんな詩織を見て、年甲斐もなく頰が紅潮する永倉。


それが恥ずかしいのか右手で口元を隠している。





そしてニヤニヤ笑っているのは当然のごとく沖田。


詩織の頭に自分の頭を乗せ、不敵に永倉を見上げている。


沖田が 見ていて楽しい者を そう簡単に見逃すはずもなかった。


ジーッと永倉を見つめたかと思うと ニンマリと笑みを作る。


得体がしれないものほど こわいものはない。



「な、なんだよ」


「永倉さんでもそんな表情をするんですねぇ。
しかも年下の宮野さんに」


「うわぁぁぁあぁぁああぁ!!!」


「急に叫ぶの、やめてください!」


「宮野は黙ってろ!」


「芹沢さん!永倉さんが!!私に暴言を!!!」



芹沢に助けを求めて、詩織は腕を伸ばす。


その腕をため息をつきながらも 嬉しそうに引っ張り、ポスっと自分の腕の中に収めた芹沢。



勝ち誇った顔で三人を見回す。


「小娘はお主らより わしが良いそうだぞ」



悔しげに三人は芹沢を睨みつける。


特に沖田。


腕をだらりとぶら下げ 恨めしそうに睨みつけている。



そんな四人を眺め、『子供かよ...』呆れている詩織。



「そこまでは言ってませんがね」


ちゃっかり芹沢の発言を否定することを忘れてはいない。



ショックで呆然とする芹沢は放っとき、詩織は芹沢の腕の中からも抜けだした。




「それでは 私はこれにて」


そう言って ペコリと頭を下げて 詩織は芹沢の部屋から出て行った。


あっという間で誰も止める暇がなかった。






そんな詩織が向かった場所は 新見錦。


芹沢の右腕と呼ばれる男の部屋へ。