* * *


あれからほんの少し経ち、詩織は土方の部屋で正座をさせられていた。


詩織の隣にはもちろん沖田がいる。



頭上から正に般若の顔をした土方が二人に怒鳴っていた。


『おまえらは人の迷惑ってのが考えられないのか?!』


『大人しくしてろ!』



そんな感じの言葉を土方は怒鳴っていた。



だが、それこそ今の土方に返したい言葉だ。




詩織はソ〜ッと土方を刺激しないように髪の間から覗き見た。




どうも虫の居所が悪いのか、怒りを収める様子が全くない。





チラッと今度は沖田の方を盗み見てみると、俯きながら静かに笑っていた!


しかも肩を震わせながら!


土方は怒ることに集中しているのか気づいていない。





(あーぁ、これ土方さんが気づいたら また怒りを爆発させるだろうなー)



心の中でそう思い、呆れる詩織。



かと言って、それを止めるわけでもなく 大人しく土方に怒鳴られていた。


心を無にして。










そしてこうなった経緯を思い出していた。










あれは、沖田の笑い声を聞きつけ、土方が飛んできたことから始まった。




沖田が大笑いしてすぐのこと。


ドタドタドタ!と 屋敷の奥からすさまじい大音量の足音が聞こえてきた、と思ったら顔を真っ赤にした土方が登場。


その勢いのまま 沖田を叩いた。



「おまえは ちったぁ静かにできねぇのかぁ!?」


「だって宮野さんが...ククッ......面白いんですもの...アハハハハハ」


「私は何も...!」


「どうだ?斎藤」


「宮野を見て 急に総司が笑い出しました」


「...二人が着替え終わったら俺の部屋に藤堂を連れて来い」


「だから私は何もして ───」


「御意」


「アハハハハハハハハハハハ
ホンット宮野さんって...クククックク」


「少しは私の話を聞いてくださいって!!!」



詩織がそう怒鳴ると 静かになる三人。


呆けた顔で詩織を見つめている。


土方に至っては、わざわざ歩き出した足を止めてまで。




改まって聞く話でも言う話でもない。



が、訴える。


「私の場合 濡れ衣です!
沖田さんが勝手に笑い始めただけで私は何もしていません!」


「まぁそうだろうな」



淡々と答える土方。


それに少し驚きながらも 詩織は不満が更に大きくなる。


いや 疑問も、か。



「なら、何故 ───」


「藤堂のこと、流石に知りたいだろ?」



そうニヤリと口角を上げて言う 土方に 詩織は自然と頷いていた。


すると満足そうに土方は部屋へと戻っていく。



斎藤も自分の部屋に戻り 藤堂を土方の部屋へ連れていく準備をするようで、玄関には沖田と詩織の二人っきり。




くるりと沖田は微笑み、詩織の方を振り返って 手を差し伸べる。



「では、行きましょうか」


「えっ?」


「服、着替えてから土方さんの部屋に行かないと」


「で、ですけど...」



沖田にそう言われたものの、詩織には替えの服などない。



今着ているものも 藤堂のものだ。



あの状態の藤堂に服を借りるなんて 命知らずなこと、詩織には出来ない。したくない。






悶々と悩む詩織を見て、ハァ...と、沖田が軽いため息を吐いた。



「僕が貸してあげるから 行きましょう?」


「...大丈夫ですか?」


「何がです?」


「...後から何か見返りとか求めませんか?」



ジト目で尋ねるしおりに、沖田は深〜いため息を返した。



「だから宮野さんは僕をなんだと思ってるの...
そんなことしませんから 僕のに着替えてくださいっ!」


「は〜い」



それなら安心と元気よく返事。


沖田の部屋へとついていった。