* * *



詩織が意識を失ってから少し経ったころ。


詩織は体中に走る痛みとともに目を開けた。




ここはどこなのか確かめようと目を開いた詩織は目の前に広がっている景色に驚く。



「何なの…ここは……」



いや、景色とは言えない何もない空間。


暗くて何かがまとわりついてくるような そんな嫌な感じがする何もない場所。


恐る恐る立ち上がろうと床に手をつこうとする。





が、あるはずの床に手が触れない。



「これは…夢?」



とりあえず頭の中で思いついた一番まともな考えを口にする。


まさに夢ならこの状況にも説明がつく、けど…






そんな詩織に倒れる前に聞こえた少女の声がまた聞こえてきた。



「しおりーん、初タイムスリップの感想はどう~?」



あまりにも場違いな明るい声で。



どこから声が聞こえてきたのか分からず辺りを見渡す詩織。



「そこじゃないってば―!
上だって!!!
う・え・む・い・て!!!」



聞こえてきた少女の声の言うとおりに上を向く。



「何もないけど?」



詩織は眉間にしわを寄せながら言った。


素直に従った自分がバカみたいだ。



「えっ…嘘っ!?
あたしまだ実体化出来てないの!?」



少し焦り気味な少女の声が聞こえる。



「あー…しおりんごめん。
まず最初に謝っておくわ」



諦めモードのさっきとは反対の暗~い少女の声が聞こえてきた。




ただ そんなことよりも



「…まずは謝る前にこれがどういう状況なのか教えてくれませんか?」



このまま少女がしたいように話を進められても困るだけだ。


そんな詩織の考えを知ってか少女は元気よく答えた。



「もちろん!
あたしだってそのために来たんだもん!!!」


「なるべく短く話していただけたら嬉しいです」



なるべくこの嫌な空間には居たくないから早く話し終わってくれ と願った詩織だった。




しかし そんな詩織の心配をよそに少女はすぐに話を終えた。




「それじゃあ簡単に言っちゃうとさ~ しおりんが崇拝してやまない織田信長がいた時代の尾張にタイムスリップさせてあげようと思っていたけど 幕末の京都に間違ってタイムスリップさせちゃったから ついでに歴史も変えちゃってよっ!」



「はぁっ!?」



ただし詩織が全く理解できない内容で。



「ちょっと待って!
タイムスリップって何!?」


「一回落ち着いてよ。
ここからがしおりんにとって大事な話になるんだから」



詩織とは正反対に落ち着きはじめた少女の声。



しかしよくよく考えてみればこれは詩織の夢の中。


そうムキにならなくても良いことだ。



「…で?ここからなんだって?」



ここは少女の言うとおりに動くことも一つの手だ。



「あっ!
しおりん やっとあたしが言いたいこと分かってくれたの?」



少女が嬉しそうな声で言ったので 少し胸が痛くなった詩織だった。



だが、すぐに少女に対するその同情心も無くなる。


なぜなら少女は「これから言うことは本当にしおりんにとって大事な話なんだからちゃんと聞いてね?」と 前置きをして



「いや~あたしの手違いでさーしおりんを新撰組の屯所の前に届けてあげようと思っていたけど、その近くにある川の中にしおりんをタイムスリップさせちゃったのよ」



少女は笑った。



笑って言ったのだった。






「…えっ?」






さすがの詩織もいくら夢だからと言って少女の自分勝手さに何かがおかしいと思い始める。



「なによ…それ。
あなた何様のつもり」


「あれっ?
言ってなかったっけ?あたしは『神さま』よ?
…人間にはそう呼ばれているわ」



まじめくさった声で自称『神さま』は言った。





でも 神さまって何?


詩織の中でグルグルとまわる疑惑。



何かがおかしい。



しかし何がおかしいのかもわからない。


とりあえず神さまの何がおかしいか確かめるために話を引き延ばすことにする。



「…神だからといって自分がしたいように行動するのもどうかと思いますが」


「はぁ?
神なんだからあたしがしたいように動いて何がいけないわけ?
しおりんは『自分がしたいように何やってもいいよ』って偉~い人に言われたら何もしない?…するでしょ?
それと同じよ」



神さまの呆れた声。


訳のわからん自分勝手な自論を言う神に詩織は物も言えなくなる。



「…だからって」


「現にしおりんだって…タイムスリップしたかったんでしょ?
それは何?
過去を変えたかったってことでしょ?
つまり過去を変えるためにタイムスリップしたかったのよね?」



マシンガーントークになる神。





そして詩織は気づいた。


(自称)神さまに対する違和感に!