まぁそんなことで状況が好転するはずもなく 抱きしめられたままの詩織。
そしてその脇であーだこーだと言いあっている 永倉、斎藤、藤堂。
なんら変わらない。
むしろどんどん声が大きくなっていることが問題だ。
いや、まだ原田が起きるのならいいのかもしれないが そんな様子は全くなく...
「はーらーだーさん?」
案の定、詩織が呼びかけても眠ったまま。
軽くため息。
好きでこうなったわけじゃないのになんで原田に抱き抱えられているのか詩織には謎だった。
はっきりと言えば迷惑というものであった。
そして、最悪なことにタイムリミットというものが迫ってきている。
ソレは確かに詩織たちの部屋に近づいていた。
ようやく原田をどうやって詩織と引き離そうか方針が三人の中で決まったようだ。
三人が三人とも腕まくりなんてして 気合いが入りまくっている。
「いっせーのっで!...で、左之さんの腕を僕が、足を一くん、胴体をしんぱっつぁんが引っ張るんだからね?」
「うむ、了解だ」
「分かってるって...左之の力に負けるなよ?」
「いくら僕でも寝ている人間には勝てるけど!?」
それからまだ下らない掛け合いが続く。
フフッと小さく詩織は笑った。
なんだか楽しそうだなって思えて。
それでも詩織にとったら早くこの状況から抜け出したかったのだが。
しかしそんな平和な(?)時間は一瞬にして消えてしまった。
わちゃわちゃとしていた中 突如、スパーンと勢いよく障子が開かれる。
「皆さーん 早く起きませんと土方さんに怒鳴られちゃいますよー
まぁ、このままでしたら 怒られることは確定ですけどね」
ニコニコと子供のように笑顔を浮かべた沖田がそこに立っていた。
日光を背負い 正に神々しく。
そして微笑みを絶やさずに部屋の中にズカズカと入ってくる。
反対に三人は顔面蒼白で震えている。
「そういえばここには宮野さんもいましたよねー?」
沖田のこの言葉で部屋の空気がマイナスへと突破する。
それでもキョロキョロとわざとらしく部屋を見渡して尋ねる沖田。
いや、これは確信犯だ。
「僕たち 最初に話し合いましたよね?
宮野さんをここに置いとける条件。忘れました?」
唐突になんの感情も感じられない沖田の声が 詩織の耳に届いた。
自分がここにいるために"条件"なんてあったことを初めて知った。
息を殺す。その話を聞きたいから。
とたんにドタバタと三人が慌てる音が聞こえる。
「そ、それは今話さなくてもいいんじゃねぇか」
続いて聞こえてきた焦る永倉の声。
よっぽど その話を詩織には聞かれたくないようだ。
「ふぅん...なら、連帯責任として何します?」
「はっ?」
「いや、ですからね?僕が土方さんにこのコトを報告しない代わりに皆さんは何をしてくれるかってことですよ」
沖田が冷めた、冷たい視線で まるで人をこれから殺すような表情で原田を見ながら三人に問いかけた。
詩織にはよく分からない話の方向になってきた。
この原田の行動はそれだけ問題があるということだろう。
チラリと上向いて原田の顔を見てみる。
...何の悩みもないような表情をして眠っていた。
「原田さんはずるいですね」
誰にも、原田にも聞かれないように 小さく小さく呟いた。
「だそうですよ?
いい加減たぬき寝入りもやめたらどうですか」
それなのにどうして一番遠くの沖田さんが聞こえているのですか?
そんな詩織の心の声は届かない。
それでも事態は一転して、
「あーぁ、なんでバレちまうかなぁ?」
のっそりと起き上がったこの人は本当に困った人。
「は、原田さん いつから起きていたんですか!?」
原田が起きていたなんて露ほども思っていなかったから 驚きのあまり立ち上がって叫ぶ詩織。
それに悪びれず
「最初から?」
なんて答えた原田。
おまけに
「おまえの寝顔って案外可愛いよな、ごちそうさま」
と詩織の耳元でわざわざ問題発言。
原田に寝顔を見られたなんて恥ずかしくって顔が熱くなる。
それを良く思っていない人物が約四名。
「は〜い それでは土方さんの部屋へ連行しま〜す」
「左之さん、早く行って土方さんに怒鳴られてきなよ。
もちろん僕らの分も」
「あやうく俺らまで罰を受けるところだったんだからな」
「今回は原田が悪い。
朝餉(あさげ)抜きぐらいは軽いと覚悟しておけ」
「それでも原田さんの監督不行届ってことで皆さん同罪ですからね?」
最後の沖田のセリフで 三人は口を閉じた。
さすがに原田よりは怒られないと思うが それでもあの土方のことだ。
何をされるか わかったものじゃない。
想像をしてか体を震わせている三人。
気のせいか顔色もかなり悪い。
それだけ土方が怖いということか?
「あ、それでは宮野さん また後で」
部屋の空気を凍らせたまま ニッコリと微笑み 沖田は爽やかに 原田を連れて部屋から出て行った。
「俺はそもそもナニもしてねぇー!」
連れていかれた方向からそんな原田の様な叫び声が聞こえてきたのはきっと気のせいだろう。
詩織はようやく平和に起きることが出来た。


