神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました


* * *


結局 あれから詩織を含め五人で台所へと向かって おにぎりを作って食べた。


それからは各自部屋に戻り 寝ることにした。


と言っても、ここにいた全員同じ部屋だったのだが。




その移動の間も寝る前も詩織はどこに行ってたのか皆に尋ねたが はぐらかされ 教えてもらうことは出来なかった。




最初は教える気があった永倉も何故か教える気がなくなったようで 詩織と目を合わさずに はぐらかされた。



それならそれで斎藤とのやり取りは何だったんだと思った詩織だったが、細かいことはもうどうでも良くなっていた。














そんなことよりも現在のことが問題だった。









なぜ朝 起きたら原田と同じ布団の中にいるのだろうか。




それだけだったらまだ良かった。


詩織がただ布団から起き上がれば良かったのだから。



それが出来ないから困っているのだ。



しっかりと体が原田にホールドされていて抜け出せない。


本当に眠っているのか疑いたいくらい力が強くてどうしようもできない。


それに壁と原田のちょうど隙間に押しこまれているような状態だ。




抜け出そうと もがいている間に詩織は眠る前のことを思い出していた。



その時はまだ原田とは違う布団で眠っていたはずだ。




それは覚えている。




川の字で 永倉・原田・斎藤・藤堂・詩織の順に廊下側からぎゅうぎゅうに並んで寝ていたはずだから。



それに寝る前にしつこく藤堂に尋ねて、怒られたことも覚えている。



...原田と詩織の間には二人、斎藤と藤堂がいたはずだ。



その障害物はどうした。


乗り越えてきたのか?


この二人に気づかれずに移動などできるのか?



特に斎藤だ。


ちょっとした動きにも目が覚めると思うのだが...


詩織なら無理だが、原田にならできたのか?




なんとか首を動かして廊下側を見ようとする詩織。


それは成功して、原田の肩越しに見えたものは...予想通りに藤堂の背中だ。



きっと 何らかの方法で原田はあの二人に気づかれずに移動してきたのだろう。




「原田さん」



あくまで 原田だけに聞こえるように小声で囁いた詩織。


ついでに原田の胸の辺りも叩きながら。



「...ん......」



微かに反応が返ってきた。




これで原田が起きればセーフ。


逆に他の人間が起きたらアウト。




なんて分かりやすいのか。




「...それは食いもんじゃねえ......捨てろ、詩織...」



何の夢を見てるんだ!なんてツッコミたくなる原田の寝言。そう寝言。






反対に起きたのは


「左之さんと宮野さん...何してるの?」




一番近くで寝ていた藤堂だった。




顔を赤くして、声を震わせ、二人を指さす指も震わせ、完全に勘違いしている。


原田を、詩織を、疑っている。そんな様子。



年頃の(と言っても良いのか)男女が同じ布団で、しかも抱き合ってたら 考えることは誰だって一つだろう。





だが、詩織にとってはそれは濡れ衣ってもの。



誤解を解かなくては!




幸いにも起きたのは藤堂だけ。



それでもあとの二人が起きるのも時間の問題。



誤解する人間が増えては面倒なだけだ。





とりあえず詩織は


「...説明は後でするので 助けていただけませんか?」


藤堂に助けを求めた。





しかし、何故か藤堂は放心状態で 話にならない。


つまりは自分しか頼れない。


最初と何ら変わらないこの状況。




「原田さん!」



それでもめげずにさっきよりも大きく、しかし小声で話しかける詩織。



胸も強く叩く。




「ンッ...」


思わず高い声を上げてしまった。


急に力を込められて原田に抱きしめられ、驚いたから。



頭が真っ白になる。口が勝手に動いていた。




「原田さん本当は起きてるんですよね?!
苦しいんで離してください!」



「なっ!...宮野さん 今助けますから!」



ハッと詩織の声に反応してか、藤堂が叫んだ。


やっと本気を出すようだ。











けれども残念。


その二人の大声のせいで 斎藤と永倉が起きてしまった。



最初は何が起こっているのか分からなかった様子の二人。



それでも藤堂のあたふたする姿、その向こう側で原田が横になっていることと詩織の姿が見えないことで なにかを察した感じだ。



「まさか原田が一番に手を出すとはな...」


「俺はお前が先だと思ってたけどな...」



斎藤と原田の物騒な会話。


それをぶった切って藤堂が慌てる。



「そんなことより今は宮野さんをどうにかしないと!」


「...本当に原田さんは寝ているのでしょうか?」


詩織のくぐもった声が聞こえた。



三人はその方向を見る。


詩織は隠れて見えない。


だが、原田が気持ちよさそうに寝ている。


詩織を抱いているからだろうか?




なんだか皆さん 原田さんが幸せそうな様子を見てムカムカしてきたようで...


「ねぇ、左之さん殺っちゃっていい?もちろんいいよねぇ?」


「あぁ、記憶が無くなる程度にはいいんじゃねぇか?」


「では どう殺る?」


殺伐としているセリフを吐く。





全力で原田さん逃げて超逃げて!


なんて思ってしまった詩織だったが、そもそもの元凶は原田さんだった...と思い出したので心の中で


ドンマイッ!


爽やかに呟いた。