神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました



情けないが力が抜けてヘナヘナと座り込ん
でしまった詩織。



そんな詩織に声を掛けたのは


「宮野ースマンな。...無事だったか?」


斎藤ではなく 何故か永倉だった。




一体どこから出てきたんだ。


不信感がつい顔に出てしまった。




そんな詩織の様子に


「...もしかして斎藤から何も聞いてないのか?」


永倉におそるおそるというような感じで尋ねられ 実際その通りなのでこくんと頷いた。



それを見て


「さ〜い〜と〜う〜」


怒ったように声を荒らげた永倉。



そして両手でげんこつを作り斎藤の頭をグリグリとし始めた。



その様子を見て 呆気にとられる詩織。



当の本人である斎藤はといえば慣れているのか真顔だ。





呆然とする詩織を見かねてか タイミングよく原田がやってきて二人の頭をペシッと叩いた。


「詩織が驚いてるだろ?そんなことは二人だけの時にでもやってろ!」


その発言もどうかと詩織は思ったがその通りでもあったので うんうんと頷く。



「その前に宮野さんはここで何してたの?」



藤堂がヒョイっと原田の後ろから顔を覗きこませて尋ねた。


その言葉に素直に答える詩織。



「あー...私は何か食べるものがないかと台所へ探しに」


「台所...逆方向にありますけど?」


「それは触れない方向でお願いします」



屋敷の中で方向音痴だなんて格好がつかないから藤堂から目をそらして答える。



「まぁ僕はいいけどね」


そう言って笑って、なかったことにしてくれる藤堂さんはいい人だ。



だが、その後ろで三人して


「迷子とかありえねぇよな」


「間抜けとしか言いようがない」


「アホはアホだな」



笑って詩織を馬鹿にしている永倉、斎藤、原田は許さない。





そう心に誓った詩織であった。




とりあえずそんな三人は無視する詩織。


「ちなみに藤堂さん達はどこにいたのですか?」


一番答えてくれそうな藤堂に尋ねる。



「ぼ、僕達ですか!?」


「はい」


何故か焦る藤堂。



不思議に思って首を傾げた。


「別に言って困ることではありませんよね?」


「そ、それもそうだけど!」


「なら別に...」


「...あー 子供は口出さない!」



何か知らないが顔を真っ赤にして怒った藤堂。


詩織には本当に怒られた意味が分からない。




後ろの三人もそう思ったのか藤堂を指さしながら盛大に噴き出して


「子供って クッ... ガキがガキに何言ってんだよ ブハッハッハッハ」


いやそこじゃない。


思わず心の中でツッコむ詩織。




そんな詩織の心中を知らずか 藤堂は詩織の目をジッと見つめながら


「僕 そこまでガキじゃありませんよね!?」


かなり真剣に聞いてきた。




だが、残念なことにその顔はやはり二十歳にしては幼く 否定することは出来なかった。



藤堂にはっきりと伝えずに微笑む詩織。



それをどう受け取ったのか嘆き始める藤堂。


廊下の隅にわざわざ移動し体育座りで呪いの言葉(らしきもの)を唱えている。


オーラなどが詩織に見えていたら 真っ黒だっただろうか。




が、それに構わず


「どこに行ってたんですか?」


背後からそう藤堂に尋ねた詩織は正(まさ)しく鬼であろう。



しかし、藤堂もそう簡単に答えるわけにはいかない。


隅で呪いの言葉を吐き続けている。




ため息をつく詩織。



「そこまで言えないなんて...島原ですか?」


藤堂にではなく 後ろで笑い続けていた三人に尋ねる。




「...み、みみみ宮野さんそんな場所まで知ってるの!?」


藤堂が叫んだ。


かなり驚いたのか詩織の肩を揺さぶりながら。


詩織がそんな所を知っているとは思わなかったのだろう。




───島原


それは女が芸を、カラダを、売るところ。


遊廓(ゆうかく)や花街(はなまち)とも呼ばれている。


中でもこの島原や江戸にある吉原などは幕府が正式に許可している特別な場所 ───





永倉が後ろから藤堂をぺチンと叩いた。


「平助、うるせぇよ」


一刀両断。男には厳しいらしい。



そして


「それは違うぜ、詩織」


笑って答えた永倉。



「...なら、祇園とかです?」


「なんで花街しか言わねぇの、もしかして俺らそういうふうに思われてるの?」


「えぇ」



なんだか呆れている永倉に 詩織は間髪入れずに答える。



その後に


「ですが 皆さんには悪いですけどお金がないですよねぇ?
もしかして 芹沢さんと?」


こんなことを言われるとは思ってなかったらしい。




まさかまだ十代の少女が壬生浪士組の金銭事情を知っていて、なおこんなことを言うとは考えていなかったからだ。



「...お前 勘違いしているようだけどそもそも俺達は花街に行ってねぇよ」


「...他に行く場所あるんですか!?」


「お前も失礼なやつだなぁ」


苦笑した永倉。




その横で


「やっぱり言えねぇよな...」


原田がこう呟いたことを詩織は知らない。