そこからの二人の行動は早い早い。
改めて顔を見合わせてから頷くと、一目散で部屋から逃げ出した。
しかし、詩織は屯所がどのような造りなのか分からないから不利になる。
そして、土方が追いかけることにしたのは
───詩織だった。
「うわぁぁぁあぁぁあぁ
ごめんなさいぃぃぃいいぃ!!!」
「あ゛ぁ゛?」
「...私、病人ですよ〜?!」
そんな声が屯所に響き渡る。
隊士も『なんだなんだ?』と、最初は覗きに来るも 土方の鬼のような追いかける顔を見てすぐに見なかったふりをする。
あぁ、もう どうすればいいの?
迷った末に手短な部屋に逃げ込むことに決めた詩織。
そこにもし先客がいれば...その時はその時だ。
その時は全てを諦め、土方に怒鳴られることにしよう...
ひとまず、廊下の角を曲がってすぐにある部屋に逃げ込むことに。
障子を急いで開け、急いで閉める。
そして姿勢を低くし、影が映らないようにして息を潜めた。
すぐ後に 土方が部屋の前を駆け抜ける音。
「宮野ー! どこ行ったぁぁぁあぁ!!!」
そんな声が聞こえてきたが聞こえないふり聞こえないふり。
やっと土方が怒鳴る声も遠くへと消えていった。
息が抜ける。
だがしかし思わず入ってしまったが誰の部屋だったか分からない。
そんな時に降ってきた言葉。
「宮野さん、落ち着きましたか?」
恐る恐ると 振り向き、誰の声か確認する詩織。
「あ、すみませんでした。
ここは山南さんの部屋で?」
「えぇ、そうですよ...
ところで宮野さんは土方さんに何をしたのですか?」
文机の前に座って、呆れながら詩織に問う 山南の姿があった。
アハハ...と 乾いた笑い声が出る。
あまりにも情けないというかしょうもないというか...
それでも逃げてきた説明を
「藤堂さんと『土方さんって本当に鬼だよね』と話していたところに当の本人が来てしまったんです」
と、簡潔に山南に説明すると、今度は笑われてしまった。
それでも ふぅん と、納得した様子の山南。
そして、詩織をチラッと見て すぐに視線をそらすと
「...それとそんな格好でいつまでいるのです?」
若干 頬を赤く染めて尋ねた。
一体『そんな格好』とはどんな格好だろう?
詩織は考える。
そして一瞬で思い出したようだ。
「こ、こんなお見苦しい姿をお見せしてすみません」
顔を真っ赤にして 床に頭をつけて謝る。
羞恥しかなかった。
「いいえ、私は何も見なかったことにしますから...
早く着替えてくださいね?」
「...はい」
そんな会話をして詩織は山南の部屋から退出した。
無論、土方に見つからないように注意して。
とは言っても、残念ながら詩織には服の予備などないし そもそも自分が着ていたセーラー服がどこにいったのかも分からなかった。
歩きながらため息が出た。
取り敢えず、自分が元いた部屋に戻ることにする。
少し迷ってしまったが、誰にも会わずになんとか戻ってこれた。
特にすることもないのでボケーッと座っている。
部屋をキョロキョロと見渡していると、藤堂が置いていった洗濯物の山を見つけた。
ゆっくりと洗濯物の山に近づく。
「...せめて、畳めるものは畳んでおこう」
出来ないなりに出来ることはしておこうという精神が働く。
考え事はしながらも、こうしてなんとか畳み終えることが出来た。
その間にもまだ だーれもこの部屋にはやってこない。
...きっと土方も追いかけるのに飽きたのだな。
と 、強引だがそう結論づける詩織。
そして、まだやることはある。
部屋のど真ん中に敷かれている、さっきまで詩織が寝かされていた布団。
これを片付けなければならない。
だが、勝手に部屋にある押し入れを開けてもいいのか?と、聞かれれば良いはずもなく...
自然、ため息が出た。
服も替えがないし、本当にやることがない。
もうどうにでもなれ
そんな考えで詩織は布団へダイブした。


