* * *
「...んっ......?朝...か」
大きく伸びをする詩織。
柔らかな布団に寝かされていたようだ。
そのおかげか疲れなんて微塵もない。
周りには誰も居ず、詩織ただ一人がその部屋にいた。
起きてすぐ、頭に浮かんできたこと。
『...さっきまでの神さまとの会話は夢だったのかな?』
そんなくだらないことだった。
ぐぅぅぅうぅ
その時、詩織のお腹が鳴った。
そういえばお腹が空いたような...ないような?
思えば、この時代に来てから何一つ食べていないことに今更ながら気づいた。
...何か食べるものがないかと探しに行こうと思った詩織。
布団から起き上がる。
「...あっ」
着ているものがまた変わっていた。
寝る前は紺地の男物みたいだった着物だったのが、今は薄い生地の、寝間着のようなもの(?)に変わっている。
一体、誰が毎回 自分の着ているものを変えているのか詩織には謎だ。
「さて...と ───」
そんなことより 何か食べるものがないか探しに行きましょうか
そんな言葉を続けようと思っていた詩織だが ソレは続かなかった。
ドタドタという足音が響き
「み、宮野さん やっと目が覚めましたか?」
藤堂が部屋にやってきたからだ。
山のような洗濯物を抱えて。
「え、えぇ...」
驚きはしたものの とりあえず 返事はした詩織。
それよりも、何故 藤堂が自分が目覚めたことに気がついたのか、それに何故 たくさんの洗濯物を抱えているのかが不思議だった。
そんな表情を詩織はしていたのだろう。
藤堂が 苦笑いをする。
「あぁ...これのこと?」
そう言って抱えてる洗濯物を軽く持ち上げた。
コクコクと頷いた詩織。
他に重要(だと思う)知りたいことがあったが 折角 話してくれるというのだから聞いてみたいと思ったからだ。
「...まぁ簡単に言うと 昨日の試合で汚れちゃったからね。
だから、僕が片付けてるってとこだよ」
簡単すぎて詩織にはよく分からなかった。
「...よく、分かりません」
詩織のこの発言に藤堂はそれもそうですね、と 笑うと、詳しく詩織が倒れた間のことを話してくれた。
彼曰く、詩織は2日間眠っていたようだ。
その間に一昨日(詩織が倒れた次の日)に『壬生浪士組の剣術の腕前を見たい』と言った会津藩のお殿様の前で、壬生浪士組の方が演武と試合形式をご披露したらしい。
その話の途中、詩織が
「...もしかして藤堂さんは土方さんと試合を?」
と、尋ねると 藤堂は一瞬目を見開いて驚いたがすぐに
「そんなことも未来に伝わっているのか...」
勝手に納得して呟いた。
その言葉に反応して 詩織は慌てて 胸の前で勢いよく手を振りながら
「で、でも結果は伝わってませんので是非ご安心を!」
本人すらもよく分からないフォローを入れた。
「それなら宮野さんは、結果...知りたいですか?」
詩織の言葉に彼は首をコテっと傾げながらフワッと微笑む。
詩織にはそこに紛うことなき天使が見えた。
操られてるかのように詩織は頷く。
はぁ、と彼は軽くため息をついて答えてくれた。
「僕、負けちゃいましたよ。
だからこの洗濯物を...ね?」
本当にあの人、威圧感がすごいですよね。
目線だけで人一人くらいは殺せそうですよ。
冗談か本気か分からない淡々とした声で続けた藤堂。
土方を思い浮かべてみると、確かに3日前に凄まれたとき。
怖かったのを思い出した。
「そうですよね、あれは怖かったわ。フフッ」
小さく笑った。
その声に反応して藤堂も応える。
「ですよね〜宮野さんもやっぱりそう思います?」
「えぇ」
「...やっと普通に笑ってくれたましたね」
なんだかホッとしたような顔で藤堂は言った。
詩織はその言葉に眉間にシワを寄せる。
笑うだけなら初日で充分にやらかしたはず。
不思議に感じながら尋ねる。
「...何故です?」
「こんなところに急に来て、しかも男ばっかりで大変...ですよね?
安心、とはいかないまでも 笑えるような場所があった方がいいですよね?
...それに気を張っているばかりだとまた倒れてしまいますよ?」
「確かに」
詩織が納得した声をあげると、藤堂はニヤリといたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「それにここには鬼もいる」
「...確かに!」
2人して顔を見合わせて微笑み、和やかムードを発生させていると
「楽しそうな話をしているな。
俺も混ぜろよ」
そこには本物の鬼がいた。


