「今日は新撰組について語りましょうか」


「そうですわね。彼らの生き様はいくら時間があっても語りきれませんものね」



現在 詩織が所属している同好会の先輩2人が楽しそうに言う。



しかし 今日『も』新撰組しか調べられないのかぁ。


先輩たちがまとめた新選組に関する歴史書を片手に思わずため息が出た詩織。


そんな彼女が所属しているのはメンバーがたった3人と少ない弱小同好会『歴史同好会』


その実態は歴史全般ではなく新撰組専門の歴女が集まったというもの?


織田信長さまLOVE! な詩織としては少し物足りない活動内容。


いや、実際は詩織には物足りないどころの話ではない。


正直に言ってしまうと 詩織が同好会に入会してから3カ月。


新撰組以外の話を先輩2人から聞いたことはない。


それ故に不満なら吐いて捨てるほどある。







なぜならば 詩織が今日こそは信長さまの良さについて布教しようと口を開く。



すると2人の先輩たちは



『またその話か』



と、面倒くさそうに目配せをし 溜め息をつきはじめる。









これが詩織にとっての日常だから。





今になって思えばどうしてこの同好会に入りたかったのか詩織にも分からない。


もしかしたら他の友達は聞いてくれない信長さまの話もここでは聞いてもらえると思っていたからなんだろうけど。



現実は新撰組の話しか許してもらえないという散々な同好会というのを見抜けなかった詩織が悪かったのか?







それに先輩たちは新撰組に夢中で詩織なんてもう目に入っていない様子。




「もう幕末に今すぐタイムスリップした~い」


「そうよね!!!
幕末にタイムスリップできるならあたしなんだってしちゃうもの!!!」


「そうそう!
それで新撰組に拾われて屯所で生活!」


「沖田様や土方様にお会いしたいわね!」



先輩たちは目にハートマークを浮かべてアホなことを言っちゃっている。


いくら詩織でもそんな夢物語みたいなこと起きないって分かっている。



でも



「…私も出来るものならタイムスリップしたいです!!!」



思わず先輩たちの話を聞いて 叫んでしまった詩織。



先輩たちも話を止めてしまい…



「ついに宮野さんも新撰組の良さが分かってくれたんですね!!!」



とてつもない勢いで勘違いしてしまった。



先輩たちの反応を見て 詩織は自分の言ったことの失敗に気づいた。


あの流れで『タイムスリップしたい!』なんて言ってしまえば 先輩たちは自分の都合のよいように理解してしまう。


「ちょっと せ、先輩!
ち、違うんです!
新撰組が良いってわけじゃないんです!
私はタイムスリップをしたいということであって…」


早めに先輩たちの誤解を解かないとなんだか危険な気がする…


そう思い詩織は全力で先輩たちに話を聞いてもらおうとした。



しかし、先輩たちは詩織の話をはなから聞く気が無く 詩織を新撰組オタクにすることで頭がいっぱいらしい。



先輩たちにはいい加減にしてほしいよ…



そんな詩織の気持ちなどはつゆ知らずに先輩たちは詩織に顔を近づけながら 食い気味に迫ってきた。



「宮野さん幕末にタイムスリップしたいんですわよね!?」


「た、確かにしたいんですが…」



私が行きたい時代はそもそもが幕末じゃないんです!






───と、詩織が先輩に否定する前にどこからか



『その願い叶えてやる』



初めて聞く明るい少女の声が聞こえてきた。














その瞬間。



詩織はよくあるタイムスリップ小説のように 強い光に包み込まれ意識を手放してしまった。