神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました


* * *



なんだか暖かとして気持ちがいい。


ふわふわと波に優しく揺られているそんな感じ。


ずっとこのままでいたいな…



詩織はそこまで考えて 何かがおかしいとパッと目が覚めた。





そして目覚めた先は なーんにもない空間。


でも、タイムスリップ前にいたあの嫌な感じのする場所ではない。


むしろ安心するような空間。




しかし ここはどこだ?




キョロキョロ周りを見渡すも、自分に見えている“そこ”が本当に 正面なのか上なのか はたまた 下なのかが分からない。





あぁ前言撤回だ。



ここは安心するような空間などではなかった。


むしろ何もなくて不安になってしまう。



「だ…誰かいませんか……?」



恐る恐ると声を出した詩織。



「アハハハハ あたしならいるわっ!
しっおりーん、ごっめんね〜」



すぐに返ってきたのは幼い少女の声。



予想などしなくても誰だか分かる。



「…神さまがここに私を呼んだんですね」



思わずため息を漏らしてしまった。



「フフッ いいえ、それは当たってるようで間違ってるわ。
ここは願えば誰でも来れる そんな場所。
分かりやすく言えば『夢と現(うつつ)の狭間の世界』ってかんじかしら」


「すみません、もっと分かりやすくお願いします」



鈴の音のように透き通るような声の神さま。


可愛らしい声だ。




だが、何を言ってるのか詩織にはよく分からない。


そして当然のごとく神さまの姿も見えない。



「そういえば神さま、今回も実体化とやらはできないのですか?」



詩織がそう聞くと 神さまはなんでもないことのように答える。


神さまにとって実際に姿が見えようとなかろうとどうでもいいことなのだろう。



「…あぁ、忘れてたわね。
今はしようと思えばできるのだけど しおりんは本当のあたしの姿を見たい?」


「はい」



仕方がないわね、とかなんとか言いながら神さまは姿を現した。




期待でワクワクしていた詩織の目の前に立ったのは 真っ赤なワンピースを着た小学1年生みたいに幼いおかっぱ頭のかわいらしい幼女。


声から幼いことは予想していたがここまでとは…



「ちょっとーしおりーん?
そんな絶望したみたいな顔しないでくれるー?」


「…私、そんな顔していますか?」


「えぇ」



困った様に微笑む神さま。



だが 何度見ても幼女だ。小学生だ。


私はこんな小さい子のために幕末まで来たのか。


なんだか虚しいってこういうことを言うんだろう。




うなだれた詩織に神さまは一言。



「…あのねー勘違いしてると思うけど あたしはしおりんより長〜くこの世にいるわよ?」


「自分で神さまって言うくらいですからね…
それくらいは分かっていますが…ねぇ?」



いくらなんでもこんなちんちくりんが 私たちがいつも信じてきた"神さま"だなんて信じたくはない。



「…それよりあたしのことはどうでもいいのよ、しおりん」



気分がだだ下がりの詩織に神さまは真面目な顔で尋ねた。





「初のタイムスリップの感想は!?」





かなりどうでもいい質問だった。





だが、こんなふざけたようなナリでも神さまは神さまだ。



機嫌を損ねても面倒だからとオブラートに包み込みながらも素直に伝える。



「まぁ…何度もしたいとは思えませんねぇ。
できるものならば二度とごめんです。
かなり疲れてしまったのですが皆さんこうなるものなんですか?」


「…ん〜 まぁあたしも しおりんがタイムスリップさせる子で二回目だから一概に言えないけど 少なくとも前の子は『疲れなんて無かった』と言ってたわね」


「そう…ですか」



詩織は神さまが言う"前の子"とやらが どんな人で、どの時代に連れていかれたのか、そして元の世界に無事に帰ることができたのか 気になるところだが 今は関係ない。


さっき答えてもらえなかった質問の方が詩織には重要だった。



キョロキョロと周りを見渡しながら尋ねる。


「あと、本当にここはどこなんですか?」


「…言ったでしょう?
ここは『夢と現の狭間の世界』だって」


「そんなふわふわとした説明ではなくしっかりした答えを私は聞きたいんです!」



頭を軽く振りながらこれ見よがしにため息をつく神さま。

ため息をつきたいのは詩織の方だ。