神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました



そんな時に両肩と頭にかかる重みと共に 頭上から降ってきた言葉。



「なーにが困ったものなんですか〜?」


「…誰っ!?」



そう言って勢いよく振り返った詩織。




「いったぁ…」


「何をしてるのですか…」



頭を相手の胸にぶつけてしまったよう。


人間にぶつかったはずなのに何故か固くて涙目。





そして誰だか確認して、目を見開く詩織。



「…貴方こそ何してるんですか、沖田さん」


「お二人だけで大丈夫なのか心配になっただけですよ〜」




語尾に音符やら星がついていそうな声色でにっこりと微笑んで沖田が言う。




(逆上はさせなかったようですね)


そうしてそのまま小声でコソッと伝えてきた沖田。


対して詩織はキッと沖田を睨みつける。


(なっ!?  私だってそこまで考えなしじゃありませんよ…)





「…意外ですね」



口元を押さえ 感動したように言った沖田。




「沖田さんは一体私を何だと思っているんですか…」



頭を押さえながら詩織は呟く。



沖田はそんな詩織を無視して 永倉と芹沢の方に向かった。



「芹沢さーん、夜分遅くにうちの者がすみませんね〜」



ニコニコと芹沢に向かいながらも チラチラと詩織を見て言う。



これはドSだから とかではなくただの嫌味ということは はっきりと分かる。




嫌味ということで詩織は思い出した。


さっきの謎の男も嫌味ったらしい奴だったなぁ、と。




まさか…ね?


帰るときにでも沖田に話を聞いてみよう。


そう決めた詩織だった。





詩織が決意した間に話は終わってしまったみたいだ。



「何ボーッとしているのですか?
帰りますよー」



沖田の優しく呼びかける声が聞こえる。



「分かりましたー」



詩織が返事をして歩き始めた。




─── と、その前に忘れてはいけないことがあった。



「芹沢さん、本当に今夜はすみませんでした。
また詳しいことは後日にでもお願いします。
では、おやすみなさい」


「おう、小娘よ。また明日にでも来るが良い」



詩織が下げた頭をポンポンと優しく叩いて朗らかに笑った芹沢。




やはり未来に伝わっている芹沢像とは違うことに詩織は驚く。




それに近藤派と芹沢派でもそこまで仲が悪いようには見えない。


少なくとも暗殺という話には繋がらなそうな感じだ。





いや、それはさすがにないか…


さっき詩織が近藤の部屋で「芹沢さんにあいさつをしてきますっ!」と言ったときのあの空気。


アレは対立していないとは言えない ピリピリした空気だった。




だが…少なくともここにいる三人の間にはそんな空気が何一つない。




やはり これは近藤一派というよりも『土方』だけが仲が悪い…のか?




…細かいことは実際に聞かないと分からないか。




このことも帰るときに二人に聞くことに決めた。





帰る前に八木邸の人達にも夜中に騒いでしまったことを謝りに行く。



嫌な顔を一瞬されてしまったが仕方がない。


大声を出した詩織が悪いのだから。



詩織は一応 目に入る範囲内でさっきの怪しい男が八木邸の者か探してみたが、どこにもいなかった。



少し落胆したがそう簡単に見つかるとも詩織は思っていなかった。


まだ諦める時ではない。




こうして なんだかんだと芹沢と別れるのも遅くなってしまった。



やはりタイムスリップとは疲れるものだ。




詩織は立っているのがやっとであった。


すでに話を聞くどころでは完全にない。






やはり 芹沢へのあいさつは明日にでもすれば良かったか…


軽い後悔が芽生えたがこれも自業自得。


それに早くあいさつをしたのだから 近藤派と芹沢派の間で問題になることもあるま…い……





詩織が歩きながらフラフラと揺れ始める。



顔を見合わせて心配する素振りをみせる 沖田と永倉。











詩織は八木邸を出てすぐ 急に倒れた。