神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました




詩織は顔面蒼白で震えながら永倉の顔を見る。



「…永倉さん、一体どうしました?」



なんとか笑顔は保たれているから良しとする。



「『どうしました?』…じゃねぇだろ!
お前はなんで俺の言うことを聞けないんだよ」



ガシッと詩織の頭を掴み キリキリと力を入れる永倉。



「イ、イタイイタイイタイですって!!!」



あまりの痛さに涙目で謝る詩織。



黙っていた男がため息をつきながら、じゃれ合う二人を見て言った。



「お主ら本当に今日会ったのか?
まるで兄妹だぞ…」


「「そんなことない(ねぇ)!」」



見事に重なる詩織と永倉の声。



そこで詩織はハッと口を塞いだ。


そしてコソコソと男から見えないように永倉に尋ねる。



「普通につっこんでしまったんですがあの男は誰ですか!?」



無論小声でだが…




詩織の問いに疑問符を浮かべた永倉だったが あぁ!…と納得したように頷き始めた。


当の詩織はなぜ頷いてるのか 当然ながら分からない。


永倉が着ている袖をちょいちょいと引っ張りながら詩織はさらに小声で聞く。



「勝手に納得してないで私にも教えてください」


「いや、お前にはまだ言ってなかったな。
俺が連れてきたのはお前が会いたがっていた『芹沢鴨』だよ」



永倉の言葉に驚きを隠せない様子の詩織。


数秒程 時間が止まる。




「…はぁ?! えっあっ…えぇ!?
あ、あの芹沢鴨ですか!?
なんか穏やか(?)ですが別人ではないんですか!?」



驚きのあまりか詩織は大きな声で叫び 先ほどまでの小声は無駄となった…




「…お前はバカかっ!?」



すぐさま永倉は詩織を勢いよく叩いた。



私は女なんだから少しは手加減してよ…と、無言で永倉に訴える詩織。


そんな詩織を無視して永倉は芹沢に謝罪している。



ぼーっとその様子を見ていた詩織だが、不意に思い出した。





『 …貴女は永倉くんに全てを任せ 何もしないのですか? 』




あのさっきの嫌味な男のセリフを。





まぁ、確かに私だって永倉さんに任せてばかりだけど わざわざそんなことを言うために現れる必要もなくない?


それに自分が言いたいこと言ったらさっさと消えたじゃん、アイツ




思い出すと か・な・り ムカついてきた詩織。




それによくよく考えなくても今は夜中。


それなのに叫んだり、突然訪問したりと非常識なことばっかりしているではないか。



あー…だから知らない奴にも嫌味を言われるのかな?


あれっ?
でもあの男…私の名前を知っていたよね?


延々と同じことが頭の中でループし続けかける詩織。




普段使わない頭を使ったせいか 頭が痛くなってきた模様。



思わず叫びかける詩織。


だが、思いとどまり深呼吸。



同じ失敗はもうしない。



トコトコと歩き 永倉たちに近づいていく。


「芹沢さん、永倉さん。
夜中にお騒がせしてしまい すみませんでした。
それと失礼な発言すみません」


ぺこりと詩織は頭を下げて謝罪した。




その様子に永倉は驚く。


いや、詩織のそれは普通の行動なのだが...先程までの詩織だと考えられないのだ。



良いところ これ以上やらかさずに大人しくするくらいだと思っていたのだ。




ふぅん…


ニヤリと二人に気づかれないように笑う永倉。



案外 そこまで礼儀がなってない奴ではないのかもしれねぇ。



何故かそう感じたのだった。





そう永倉が感じている間に話を進めている詩織。



「芹沢さん。
改めて初めまして、宮野詩織です。
この度 前川邸にお世話になることになりました。
これから壬生浪士組の皆さんには迷惑をおかけしてしまうことがあるかもしれませんがよろしくお願いします」


再び頭を下げた詩織。




そんな詩織を芹沢は見下ろして一言。


「お主は本当に未来から来たのか?」


訝しげに芹沢は言う。




芹沢のセリフに『うっわぁ…』頭を抱えたのは永倉。



確かに自分が芹沢さんに「これから紹介する女は未来から来たそうです」なーんて言ったが まさか馬鹿正直に本人に尋ねるとは思わないではないか…


裏表のないところが芹沢さんの良いところではあるが…時と場所と内容を考えて欲しいな……


自分がまいた種とは言え 思わずため息を落とす。




詩織は ため息をこぼした永倉を冷めた目で見た。


その心の中は『ため息をつきたいのは私のほうだよ…』みたいなものか?




心の奥底で ため息をついたものの詩織は芹沢に笑顔で答える。



「はい、芹沢さんのおっしゃる通り私は未来から来ました」





途端に目をキラキラと輝かせる芹沢。



「それならば わしが辿る未来がわかるかの!?」



期待に満ちた瞳とともに詩織に尋ねてきた。




だが、詩織は



「いいえ、すみませんがそれは分かりません」



困ったように微笑む。




「…そうか」



残念そうにショボンとする芹沢を見て詩織は ほんの少ーし良心が痛んだ。





本当は 芹沢のこれからの未来を詩織は知っている。


だが、誰が本人に伝えられる?

















『貴方は将来 仲間から暗殺されます』と

















少なくとも 詩織にはそんな残酷なことを伝える勇気はなかった。





仮に真実を伝えるとして ───


確かに芹沢は今は落ち着いているように見える。



しかし これからは? 明日は?



どうなっているかわからないのが事実だ。



もしも 酒を飲んで我を忘れている時に詩織の言った言葉を思い出して不機嫌になったら?



そのまま斬り殺されてしまう?







ここまで考えて詩織は恐怖からかブルっと震えた。







そんなことが起きない。


なんてことは確実に言えない。


むしろ その可能性の方が格段に高いことに気がついたからだ。





「…困ったものよね」



ため息と共に詩織はそんな言葉をこぼした。