神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました




一方 部屋を出ていった詩織と永倉はと言うと…



「なんで俺を連れてきたんだよっ!」


「…なんとなく? ですかね」


「なんとなく?…じゃなくてしっかり説明しろ!」



仲良く(?)口喧嘩していた。




近藤一派が住んでいる前川邸から二人は芹沢一派が住む八木邸へ移動している最中。


しかも外は静かなものだから二人の声は響く響く。


埒が明かない状況に詩織はハァ と軽くため息をついた。



「説明したら大人しくついてきてくれるのですか?」


「あぁ、説明次第ではな。」



その言葉で歩きを止める詩織。


永倉も詩織の隣で歩くのをやめた。



そして詩織は八木邸の敷地内にある茂みに何故か隠れる。


永倉も詩織に倣って茂みに隠れた。



詩織は今度は深〜くため息をついてコソコソと小声で答える。


明らかに面倒くさそうな顔をしている。



「…まずは簡単に考えてみてくださいよ。
私は初対面なんですよ、芹沢さんと!
それなら同じ流派である永倉さんがいた方がいいじゃありませんか」



おぉ!…と納得した永倉。



だが、小首を傾げて一言



「…でも、お前は俺のことを知らないんだよな?
何故 俺の流派を知っている?」


「……あ」



しまった!…という表情になる詩織。


オドオドと言い訳をしようとしたがそれを遮って真顔で尋ねる永倉。



「な、永倉さんは有名でしたから私も知って ───」


「さっきは俺のことを知らないと言ってたのにか?
それに知っていたなら流派のことをさっきあの場で言えば良かっただろ?
それも十分俺の『情報』だと思うが?」


「…関係ないことだと私は思ったんです!!!」



急に大声を出した詩織。


ハッと口元を隠して、なかったことにしようとしてももう遅い。


逃げ道などはすでにない。






八木邸が騒がしくなった。







「な、なな永倉さん、どうしましょうっ!?」



オロオロとまた騒ぎかける詩織。


今度は永倉がハァと軽くため息をついた。



「少し黙ってろ」



とてもとても呆れた顔で詩織の頭をポンッと叩きながら言った。



「で、ですけど〜…」


「シッ」



それでも喋ろうとする詩織を 永倉は大きな手で口を塞いで黙らせた。



「フガッ」



女子力ゼロでうなったのは詩織だ。


永倉はそんな詩織を見て 何故かうなだれた。




そしてコソっと詩織に言う。



「俺がなんとかするからお前は絶対に一言も声を出すなよ?」



詩織は軽く頷いた。


それしか出来なかったとも言えるが…



詩織が頷いたことを確認すると 永倉は茂みから出ていった。


きっと 芹沢とかの八木邸の人達に詩織の大声について説明しに行くのだろう。


なんだか悪いことをしたなー…と、思う詩織。


一人小さくため息をついた。




「…貴女は永倉くんに全てを任せ 何もしないのですか?」



気が緩みかけていた詩織の頭上から 不意にため息混じりの男の声が降ってきた。


ハッと声の方を振り返る。


だが、まともな明かりがないせいで誰なのか判別ができない。


せいぜい詩織が隠れている茂みを覗くように男がいることが分かるくらいだ。



じーっと見ていた詩織を男はクスクスと笑いながら



「私が誰なのか分からないのですね?
当然ですよ。私は今 貴女が出会うはずのない人物ですから」



詩織に意味不明なことを言った。




「はっ?」



未来から来た自分よりもはるかに怪しい男。


姿が見えないこともあり 余計に怪しい。



「貴方は ─── 」




男は詩織が疑問を投げかけるのを遮り



「ふふっ 永倉くんが戻ってきたようなので私はここで退散としますね?
では、また会えることを楽しみにしていますよ、詩織さん」



最後に詩織の名を呼んで 文字通り消えた。






何が起きたのか分からない詩織。


永倉との約束を破り 茂みから表へと出た。



そこにあるのはなんの変哲もない 明るくなり騒がしくなっている八木邸。


これだけ騒がしければ見知らぬ男が一人そこに混ざっても分からないだろう。



いや、詩織が知らなかっただけで さっきの男は八木邸の人達が知っている男だったのかもしれない。


もしかしたら 永倉の話を聞いて詩織を探しに来た人間なのかもしれない。



色々と詩織が深く考えても分からないものは分からない。





頭がパンクしそう。



「うわぁあぁぁぁあぁぁああぁぁあ!!!」



頭を掻きむしり詩織は叫びながらその場にうずくまった。







そんななか


トントン と詩織の肩を軽く叩く猛者が一人。



「何 騒ぎをより大きくしているのかな?」



額に青筋を浮かべている永倉だった。




おまけにその後ろには永倉が連れてきた巨大な男が冷めた目で詩織を見ていた。