詩織は必死で頭をフル回転させ このピンチな状況を打破できそうな案を考える。
考える。
……だが、考えてはいるのだが良い案なんてそう簡単には出てこない。
何かヒントになるものはないかと部屋の中を見渡す。
そして、ある人物の顔を見て ひらめいた。
要は間者ではないと納得させ、尚且つ未来から来たと信じさせれば良いのだ。
つまり普通の間者は知らなくて、未来から来た詩織のみが分かる情報を提示すればよい。
これは良い案を思いついた と自画自賛して詩織は『ある人物』に向き直り 微笑んだ。
「土方さん?
未来では『豊玉発句集』が有名ですよ?」
「……はぁぁぁあぁぁあぁっ!?」
今度は土方が詩織の言葉に驚き 叫んだ。
そんな土方を無視して詩織は沖田に話始める。
「…もしかしてですが、沖田さんも『豊玉発句集』を知っておいでですか?」
詩織の質問に沖田は「さぁ?」とニヤニヤしながら答える。
これは知っていると考えても良さそうだと詩織は判断した。
しかし 豊玉発句集が何なのかを知っている人物はこの部屋には他にいない模様。
何故なら沖田と土方以外は頭上にポカーンとクエスチョンマークを浮かべていたからだ。
そこで代表で原田が恐る恐るといった感じで詩織に向かい尋ねた。
「なぁ その『豊玉発句集』ってのは一体なんなのか教えてくれねぇか?」
「えぇ、もちろん!」
詩織はこれ以上ないという満面の笑みで返事した。
だが、そんな詩織を土方がほっとくはずがない。
「てめぇは黙ってろ!!!」
当然 詩織は土方に怒鳴られた。
しかし意外にも打たれ強かった詩織。
土方に鬼のように怒鳴られてもへこたれなかった。
詩織は土方を無視して原田たちに顔を向け喋りはじめる。
「『豊玉発句集』というのはですね、土方さんが詠んでいた句集のことです。
ちなみに『豊玉』は土方さんの俳号ですね。
未来ではそれはそれは素晴らしい出来映えだと言われているんですよ?」
その詩織の言葉を聞いたとたん大人しくなった土方。
嬉しいのか顔がニヤけていてはっきり言って気持ち悪い と思った詩織。
「私は別に褒めたわけではないですよ?」
土方に現実を突きつけるのを忘れてはなかった。
「なっ!?」
詩織の言葉に驚きの声をあげた土方。
まさかの自分の俳句が後世で素晴らしいと言われていると本気で思ってたようだ。
下手の横好きというレベルなのに図々しい。
詩織は土方を更に追い詰める。
「『梅の花 一輪咲いても うめはうめ』…でしたっけ?
よく三回も同じ季語をいれようと思いましたね、馬鹿ですか?」
真顔で言うものだから心のキズがえぐられる。
しかもその句をきいてその場にいる者全てが笑いをこらえているものだから ───
怒鳴る元気もなくなった。
ハッと土方の様子に気づいた斎藤。
すぐさま笑いを引っ込めようとした。
が、そう簡単に収まっていたら苦労はしない。
結果、こらえようとした分盛大に吹き出した。
そこからは笑いの嵐。
屯所中に響きわたる男たちの笑い声。
土方は考える事を放棄した。
土方がうなだれる様子をみて さすがに憐れに思ったのか詩織は皆に笑いやめるようにお願いした。
男たちも可哀想に思ったのか素直に笑いやめる。
詩織はやっと静かになった部屋で土方に微笑みながら聞いた。
「これで私が未来から来たということを信じてくれますか?」
ただし目は全く笑ってなどいなかったのだが。
コクコクと土方は高速で首を上下に動かした。
それ程 余計なことをこれ以上詩織に言われたくなかったのだろう。
こうしてなんとか詩織は未来から来たということを信じさせることができた。
だが、新たな問題が発生。
「…私 これからどうすればいいんだろう?」
そもそもの根本的な問題なのだが。
途方に暮れかける詩織。
そんな詩織に近藤は優しく伝える。
「君はここに住めばいい」
「えっ?」
「…他に行くあてもないだろう?」
近藤が言う通りなので詩織は頷く。
詩織としては住む場所も決まり万々歳なのだが 果たして自分はこの屯所に住んでも良いのかと疑問が生じる。
しかしそれは幹部たちの顔を見て なくなった。
皆 優しい笑みと共に詩織を見つめている。
中には 詩織がここに住むことに期待してなのか目をキラキラと輝せている者もいた。
「…皆さんありがとうございます。
お言葉に甘えて…ここに住みたいです。
よろしくお願いします」
詩織はみんなに向かって深々と頭を下げた。
朗らかな空気がこの部屋から溢れんばかりに流れた。
ただし
「では、芹沢さんのところにも挨拶をしたいのですが…」
それは詩織がこんなことを言うまでだった。


