はてさて
あと名前を言っていない人は誰か考え始めた詩織。
「あ」
新撰組を語るうえで忘れてはいけない人を忘れていたことに気づいた。
沖田の隣に座っていた 少し長い髪を後ろでチョコンと結んでいる二十代半ばくらいの男。
彼はすでに井上から視線を外し 詩織を見つめていた。
詩織も彼の方を向く。
そして口をゆっくりと開いた。
「貴方は…永倉新八ですね?」
やっと自分の番が来たと 顔を誇ばらせた彼。
先ほどの詩織以上に声を弾ませた。
「そう思ったのは何故か聞かせてくれるか?」
「もちろんです」
やはり彼に向かってニッコリと微笑んだ詩織。
そうやって笑うことが彼女の癖なのかもしれない。
「まずは 沖田さんの隣にいたからです。
貴方は二番隊組長ですよね?ですから 沖田さんの隣にいる貴方を『永倉新八』だと考えました」
詩織はそこで説明を終了した。
が、それだけでは不服のようだった彼。
「…それだけなのか?」
口を尖らせて拗ねた。
そんな彼に向かって詩織は本当に申し訳なさそうに謝る。
「はぁ…すみませんが 私は他に特に永倉さんの情報を知っているわけではないので……すみません」
「そ、そんなぁ〜」
自分が将来あまり有名ではないことを知ったからか永倉はあまりにも情けない声を出した。
そんな永倉をほっといて詩織はその部屋にいた一同の顔を見渡す。
「…ん?」
そこで気づいた。
まだ一人 当ててない人間がいることに。
だが、あと名前を告げてない人間が誰か頭に浮かばず声に出せない。
しかもその本人は意地悪げに詩織を笑って見つめている。
詩織にとってはかなりのプレッシャーだ。
頭をフル回転させる。
そのおかげか やっと名前が出てきた。
「斎藤一…?」
「一番最後が俺だとはな」
斎藤は何故か自嘲する様に笑った。
そう嘲笑う斎藤に 詩織はどこか違和感を感じ バカ正直に本人に尋ねる。
「…本当に斎藤一さんですか?」
「あぁ、そうだが?」
詩織の目の前でニッコリとほぼ満面の笑みといえる表情をしているこの男。
クールだったといわれていた男がする表情なのか?と思ったのだが ───
本人がそうだというならそうなのだろう。
細かいことは考えないことに決めた詩織。
とりあえず『これでどうですかっ!?信じてくれます?』と土方に尋ねようとした。
が、渋〜い顔をしている土方を見て動きが止まった。
「…あの、何か問題でも?」
「てめぇが全員を当てられたことが問題なんだよ」
「えっ?」
「間者の疑いが強まっちまっただけだ」
「え…っえぇぇぇえぇぇ!?」
土方の言葉に驚き 思わず叫んだ詩織。
可哀想に…という幹部たちの視線が詩織に集まった。
ちなみに、沖田ただ一人は腹を抱えて大笑いして、土方に睨まれていた。


