このとき部屋に居たのは 近藤、土方、藤堂を含めて九人。
絶対とは言えないが ここにいるのはきっと近藤一派…というより試衛館にいた方たちだ。
そうだったらきっと詩織でも当てることが出来る可能性はある。
「はぁっ!?おまえは俺たちのことを知らないんだろ?」
「はい。
ですが皆さんは有名でいらしたし……皆さんの特徴も未来に伝えられているので…当てることはできるはず、です」
「まぁお前がしたいって言うなら…」
と 声を荒げながらも渋々納得はした土方。
『絶対に皆さんの名前を当ててやるっ!』と詩織が意気込んだときに
「へーそんなこと出来ちゃうんですかぁ」
詩織の決意をぶち壊すように 頬杖をつきながら詩織の話を聞いていた男がどうでもよさげに言った。
はなから詩織が当てることはできないと決めつけているようだった。
それならば…とジッと男の顔を見て
「貴方は沖田総司…で合っていますか?」
「…どうして僕が『沖田総司』だと思ったのですか?」
余裕の笑みを浮かべながら男が問うた。
詩織は男に向ってニッコリと微笑み答える。
「初めは貴方の座っている位置を見て…ですかね」
「はっ?」
「私の時代では沖田総司は一番組隊長と伝えられているんです。
もしそれが事実でしたら貴方は局長・副長の次に偉いはずでしょう?」
「…まぁ、そうなる…かな?」
「だから近藤さんの隣の上座により近いところに座っているのですよね?
…という訳で、貴方が『沖田総司』で間違いありませんね?」
「…はい、そうですよ」
あっさりと認めた沖田。
だが、まだ余裕を崩さずに さっきとは逆に詩織にニッコリと微笑み言う。
「ですが、僕を当てられたからといって他の方も当てられるとは限りませんよね?」
確かにその通り。
ぐうの音も出ない。
「では、土方さんの隣に座っている方」
僕ですか? というような表情で反応してくれたメガネをかけた優しそうな男を見て詩織は告げる。
「貴方は山南敬助さんですよね?」
「何故、私が山南敬助だと考えたのか教えていただけますか?」
優しく微笑みながら山南が詩織に聞く。
「沖田さんと同じようなものです。
まずは座り位置からですね。
貴方は副長ですよね?副長は上座に近い方にいるはずなので貴方が山南敬助だと判断しました。
また、『仏の副長』とも呼ばれていたみたいですので優しそうな雰囲気をした貴方が山南敬助だと思いました。
…が、合っていましたか?」
「えぇ、そうです。合っていますね」
優しく微笑み認めてくれた山南。
無事に当てられたことに安心し ホッと息を吐く。
そして次に誰を当てるべきか 幹部たちの顔を見渡す。
そして決めた。
「貴方は原田左之助ですね?」
藤堂の隣に座り 色気をまき散らしている男に向かって尋ねた。
「次は俺か」
苦笑をしながら彼はきいた。
「はい、そうです」
彼に向かい微笑んだ詩織。
そして申し訳なさそうに彼に聞く。
「…ですが、確認のためにお腹を見せて頂く事は……出来ませんよね?」
「それは何故だ?」
詩織を試すように彼は笑った。
そんな彼の目を見てしっかりと答える。
「切腹跡を見るためです」
「…未来にはそんな事まで伝わってんだな」
朗らかに笑いながら「ほらよ」と服を脱ぎ 詩織に腹を見せた彼。
「…ありがとうございます」
槍や剣術をしているだけあって彼にはしっかりとした腹筋がついていた。
そして真一文字に切腹跡がついてある。
これでこの色気ムンムン男は『原田左之助』だと確定したわけだ。
そして次は誰を当てようかと悩んだ詩織。
パッと目に入った 部屋の中で一番歳をとっている男に決めた。
彼の方を向き 告げる。
「貴方は井上原三郎さんですね?」
「おっ。オレのことも未来には伝わっているのか」
なんだか嬉しそうに彼は言う。
詩織も嬉しそうにしている彼を見て嬉しくなり 声を弾ませて言った。
「はい!
皆さんのお母さん的存在だと(一部で)有名です」
「…そ、そうなのか」
「お、お母さんって…アハハッ……面白いこと言うね、宮野さんは」
顔を引きつらせた彼。
ショックを受けたようだった。
それに畳み掛けるように沖田が笑ったものだから ───
「…お前らがしっかりとしていねぇからオレが面倒を見てやらねぇといけなくなんだろうが!!!!!!」
滅多に怒らない(はずの)彼が怒鳴った。
そして静かになる部屋の中。
呆然と 皆 彼の顔をまじまじと見ている。
ハッと自分に視線が集まったことに気づいた彼は気まずそうに詩織に向かって
「…こんなことが日常茶飯事の男所帯だけどこれからもよろしくな?」
弱々しく微笑んだ。
「はぁ…私の方こそよろしくお願いします。井上さん」
詩織は深々と井上に向かって頭を下げた。


