本当は怖い愛とロマンス

バーで倒れるまで酒を浴びるように飲み、夜中の12時を過ぎた頃タクシーで家に着くと、家の玄関の前に動く人影を見た。
酔いも回っているせいか視界がぼやけ、はっきり誰だか確認は出来ず、俺は千鳥足で動く人影に近づく。

「初めまして。本木さん…すみません。こんな夜分遅くまでご自宅の前で待たせて頂いて…私、今回のドラマの脚本家の小野江理と申します。」

俺の前にジャケットの内ポケットから慌てて取り出した名刺を差し出し、丁寧にお辞儀をした。

俺はその名刺にも江理にも見向きもせずにズボンのポケットから取り出した鍵でドアを開ける。

「あの…本木さん。」

呼び掛ける声に何も言わずにドアの鍵を閉めた。

「せめて、私の書いた台本だけでも読んでくれませんか?本木さんが書いた曲を聞いた時、私の書いたストーリーの背景とシンクロしたんです。私の書いた脚本には、本木さんの歌しかないって思いました。今度のドラマの台本、郵便ポストに置いて帰りますから、気が向いたら目通してください。私、諦めませんから。」

ドア越しにそう告げた江理は、ハイヒールの音と共に去っていく。

俺はそれを確認した後深いため息をつきながら、壁をつたいやっとリビングまで行くと、冷蔵庫のミネラルウォーターのペットボトルを一気に飲み干して、ソファに身を預けた。

「うざい女…」

そう一人で呟くと、静かに瞼を閉じる。

次の日の朝だった。
うるさく鳴り響く玄関のチャイムで目が覚めた。
二日酔いのせいか酷い頭痛がした。
目が半分閉じかかって完全に起きていないまま、インターホンの映像を確認するのも面倒でそのまま玄関のドアをあける。
すると、そこには昨日の夜、玄関前で待っていた江理が立っていた。

「おはようございます。台本、読んでいただけましたか?」

俺は、昨日の女だと解ると有無を言わさずドアを閉めようとする。
しかし、足でドアを閉めるのを防ぎ、無理矢理ドアをこじ開けた。

その行きすぎた行動に俺は苛立ち、つい言葉を返してしまったのだ。

「読んでないよ!あんたの台本なんて。仕事は受ける気はない。あの歌は、俺の中で駄作なんだよ。二度と聞きたくないんだ。何度こられても答えは一緒だよ!」

江理はその言葉を聞いたあと満面の笑みを浮かべ、俺に言った。

「やっと、声聞かせてくれましたね!それだけでも私の中では前進です。」


俺は返答もせずにドアを勢いよく閉めた。
その日から毎日江理は俺の前に雨の日も晴れの日も欠かさず現れた。
俺が首を縦に振るまで毎日の様に。
でも、俺の気持ちは変わらなかった。
そして、彼女の台本に目を通す事も読む事も一度もなかった。