俺は頭を抱えたまま、暫くリビングから動けなかった。
すると、静寂の中に携帯電話が鳴り響く。
「もしもし…」
出るつもりなどなく、咄嗟に電話を取ってしまったかったせいか、力なく電話に出た。

「本木さんですか？」

電話の声は昨日の龍之介の声だった。

「なんだよ…今…」

俺が電話をきり言葉を終わらせようとしたのに、龍之介が被せるように言葉を重ねた。

「本木さん、谷垣社長が今朝、自宅で亡くなりました…」

その龍之介の一言の破壊力は、俺の全ての思考回路を停止させた。

「何、言ってんだよ…？だって俺は、一昨日まで谷垣さんと会ってたんだぞ。」

龍之介は俺の混乱した言葉にただ泣くばかりだった。

谷垣は自殺だった。
見つけたのは、朝連絡しても連絡がつかない事から自宅におしかけるとと、自宅の風呂場で首を切って横たわる谷垣を発見し、風呂場は血塗れだったという。
谷垣は病院に運ばれたが、あまりにも傷が深く頸動脈まで傷が達しており打つ手はなく、息を引き取った。

俺は電話を切った後直ぐに、未だに眠る恵里奈を見つめながら、そっとキスをして手を握りしめた。
恵里奈は父親と分かり合えないまま、眠り続ける恵里奈を考えると胸が痛む。
泣きながら、崩れ落ちた俺は声を上げて泣いた。
きっと、どこかで頭を優しく「大丈夫だ」と撫でて欲しいと願いながら、感情を制御する場所を失ったんだ。
その時だった。
俺の手を少し恵里奈が握り返した。
ゆっくりと顔を上げると、目を覚ました恵里奈がそこにいた。

俺は涙を流しながら、にっこりと笑う。

「おはよう。」

恵里奈は俺の顔を見つめながら、笑って髪をとかす様に撫でる。

「おはよう。」

何から話そうか。彼女はこの現実を知って何を思うだろう。
夢から覚めなければ良かったと思うのだろうか。

「話があるんだ…」


俺は、彼女にゆっくりと話し始めた。