「お前、何言ってんだよ?あいつは、奈緒は、俺達の仲間だろ?」
そう言って、俺が孝之の方を見ると、顔を俯いたまま、目も合わせようともしない。
孝之が掴んでいた俺の腕を掴む手の力が強くなる。
「ただの同情だろ?変に優しくなんかしない方がいい。」
「お前、何言い出すんだよ!」
俺は、孝之の手を振り払い、鋭い目つきで睨みつけると、身を乗り出して、カウンター越しに孝之の胸倉を掴んだ。
「お前は、昔から、何も解ってねぇ。」
孝之の目は、じっと俺の目を見つめていた。
その目は、まるで何かを訴えかけるみたいに、俺に問いかけていた。
きっと、俺は、随分前から、その目の答えを知っていた気がする。
ただ、知らないふりをしていただけで。
いつも、心の奥底で、ずっと知らないふりを続ける事が、一番良い解決策だと思っていたからだ。
「佳祐、俺は…」
孝之が、次に話そうとした言葉の前に俺は言葉を重ねた。
「そんなマジな顔で冗談言おうとしても面白くもなんともねぇんだよ。」
その言葉は、きっと孝之の気持ちを一層、煽り立てていた。
「今、俺が冗談言えるような余裕がある様に見えるか?」
孝之の目は、真っ直ぐ俺を見つめていた。
俺は、その目で見られる事に耐え切れずに、掴んでいた手を離したと同時に目線を逸らした。
「俺、今から奈緒の家に行って、様子見てくるから。やっぱり、心配だしな。」
「奈緒なら、家にはいねぇよ。俺が、昨日の夜、病院に運んで置いたから。」
孝之は、カウンターの俺が飲んでいたグラスを流しに片付けながら、ため息混じりにそういった。
孝之の目の下には、くっきりとクマができており、疲れた表情からは、昨日の夜、一晩中、奈緒の側に付き添っていたのが伺えた。
「お前は、何にも心配する事ねぇ。あとは、俺に全て任せておけばいい。」
「なんで、お前、そこまで。これは、俺の問題だろ?お前が、そこまでする必要なんかねぇだろ?」
「お前だって、もう、気付いてんだろ?」
孝之は、手を止めて、上目遣いで、俺を見ていた。
俺の額からは、汗が滲んでいた。
次の言葉がなかなか出てこない。
すると、孝之は、口元を緩めて言った。
「そんな、困った顔するなよ。別に、俺は、お前に見返りなんて望んでねぇよ。今の言葉はただの俺の独りよがりとして、受け流してくれればいい。」
「孝之、俺は…」
俺の次の言葉を遮るように、孝之は、首を横に振った。
もう、何も言わなくていいと、それは、孝之自身が拒んでいるサインだと、俺は思った。
きっと、孝之にはその先の俺の言おうとした言葉が、理解出来ていたからだろう。
そして、堰を切ったように、孝之は話し始めた。
「俺は、もう、お前の表情や仕草で言いたい事が解っちまうとこまで、きちまったんだな。」
俺は、その孝之の言葉に罰が悪そうに、顔を下に向けた。
「佳祐…俺は、昔からお前が羨ましかったんだ。俺にはないものをお前は、全て持ってただろ?お前は、俺の憧れだったんだ。」
いつも、昔から背中で感じていた突き刺さる視線は、孝之だとこの時わかった。
そして、孝之の昔を懐かしむ笑顔が次の言葉で一瞬にして消えた。
「俺は、いつからか、お前の全てを知りたいと思うようになった。それが、お前の大切なものなら尚更…全て」
孝之の視線が俺の視線と絡み合った。
その目は、深い罪を心の奥底に背負った人間の目をしているようにも見えた。
静寂に響く俺の心臓の鼓動は、痛いくらいに耳に響いていた。
それは、あの渚を失った日に似た光景だった。
孝之は、潤んだ瞳で俺を見て、言った。
「俺は、渚と寝た」
そう言って、俺が孝之の方を見ると、顔を俯いたまま、目も合わせようともしない。
孝之が掴んでいた俺の腕を掴む手の力が強くなる。
「ただの同情だろ?変に優しくなんかしない方がいい。」
「お前、何言い出すんだよ!」
俺は、孝之の手を振り払い、鋭い目つきで睨みつけると、身を乗り出して、カウンター越しに孝之の胸倉を掴んだ。
「お前は、昔から、何も解ってねぇ。」
孝之の目は、じっと俺の目を見つめていた。
その目は、まるで何かを訴えかけるみたいに、俺に問いかけていた。
きっと、俺は、随分前から、その目の答えを知っていた気がする。
ただ、知らないふりをしていただけで。
いつも、心の奥底で、ずっと知らないふりを続ける事が、一番良い解決策だと思っていたからだ。
「佳祐、俺は…」
孝之が、次に話そうとした言葉の前に俺は言葉を重ねた。
「そんなマジな顔で冗談言おうとしても面白くもなんともねぇんだよ。」
その言葉は、きっと孝之の気持ちを一層、煽り立てていた。
「今、俺が冗談言えるような余裕がある様に見えるか?」
孝之の目は、真っ直ぐ俺を見つめていた。
俺は、その目で見られる事に耐え切れずに、掴んでいた手を離したと同時に目線を逸らした。
「俺、今から奈緒の家に行って、様子見てくるから。やっぱり、心配だしな。」
「奈緒なら、家にはいねぇよ。俺が、昨日の夜、病院に運んで置いたから。」
孝之は、カウンターの俺が飲んでいたグラスを流しに片付けながら、ため息混じりにそういった。
孝之の目の下には、くっきりとクマができており、疲れた表情からは、昨日の夜、一晩中、奈緒の側に付き添っていたのが伺えた。
「お前は、何にも心配する事ねぇ。あとは、俺に全て任せておけばいい。」
「なんで、お前、そこまで。これは、俺の問題だろ?お前が、そこまでする必要なんかねぇだろ?」
「お前だって、もう、気付いてんだろ?」
孝之は、手を止めて、上目遣いで、俺を見ていた。
俺の額からは、汗が滲んでいた。
次の言葉がなかなか出てこない。
すると、孝之は、口元を緩めて言った。
「そんな、困った顔するなよ。別に、俺は、お前に見返りなんて望んでねぇよ。今の言葉はただの俺の独りよがりとして、受け流してくれればいい。」
「孝之、俺は…」
俺の次の言葉を遮るように、孝之は、首を横に振った。
もう、何も言わなくていいと、それは、孝之自身が拒んでいるサインだと、俺は思った。
きっと、孝之にはその先の俺の言おうとした言葉が、理解出来ていたからだろう。
そして、堰を切ったように、孝之は話し始めた。
「俺は、もう、お前の表情や仕草で言いたい事が解っちまうとこまで、きちまったんだな。」
俺は、その孝之の言葉に罰が悪そうに、顔を下に向けた。
「佳祐…俺は、昔からお前が羨ましかったんだ。俺にはないものをお前は、全て持ってただろ?お前は、俺の憧れだったんだ。」
いつも、昔から背中で感じていた突き刺さる視線は、孝之だとこの時わかった。
そして、孝之の昔を懐かしむ笑顔が次の言葉で一瞬にして消えた。
「俺は、いつからか、お前の全てを知りたいと思うようになった。それが、お前の大切なものなら尚更…全て」
孝之の視線が俺の視線と絡み合った。
その目は、深い罪を心の奥底に背負った人間の目をしているようにも見えた。
静寂に響く俺の心臓の鼓動は、痛いくらいに耳に響いていた。
それは、あの渚を失った日に似た光景だった。
孝之は、潤んだ瞳で俺を見て、言った。
「俺は、渚と寝た」

