マネージャーの龍之介から久しぶりに連絡が来たのはそれから2日後だった。

「ライブしませんか?」

龍之介がただ静かに一言そう問いかけた。
いつものテンションとは違うその声に俺はただ何も答えずに沈黙していた。

「ここ数ヶ月、僕はマネージャーとして何も言わずに、あなたの事を見てきたつもりです。こんな僕なんかに言われるのは、あなたのプライドが傷つくかもしれません。
でも、僕はあなたの一人のファンとして言わせてください。今の本木佳祐ではなく、ミュージシャンとしての本木佳祐の姿を見たいんです。何万人の観客の前でステージで歌うあなたを子供の時に見たあの時から、僕はずっとあなたに少しでも近づきたいと思ってました。そして、僕はあなたの傍にいる事が出来るとわかった時は幸せで嬉しかった。」

電話口から龍之介の鼻をすする音がする。

「でも、僕は一度もまだ、あなたがあの時のようにステージに上がる姿を見てません…」

そう言ったと同時に家にファクスの音が鳴り響く。
俺は携帯の受話器を何も言わずに当てたまま、届いたファクスを見た。
それを見た時、胸の中にこみ上げてくる何かが俺の中で弾けた。
長い間、ミュージシャン活動もせずに腐っていた俺を見捨てずにいたファンから事務所に届いた手紙を龍之介が全てコピーし、俺にファクスしてきたのだ。

「僕は箱いっぱいに毎日のように届く手紙を見たとき、何があっても本木佳祐は、あなたの歌がなくならない限り、いつだってあの時の本木佳祐ままなんだって痛感したんです。」

その言葉に思わず、俺は笑っていた。

「俺なんかをまだ、必要としてくれる誰かがいたなんてな…」