しばらくして江里は電話を終えて戻ってくると、置いていたバックを肩にかけ、乱暴に携帯電話をズボンのポケットにねじ込んだ。
「すみません。どうしても戻らないといけない急な打ち合わせが入ってしまって、すぐに事務所に帰らないといけなくなりました。また、次の機会に話し伺いますので、すぐ、何かあればいつでも連絡してください。」
江里は少し早口に小走りに帰っていった。
俺はその姿をただ黙って見送った後、気付いたら、車を走らせていた。
きっとぬるま湯に使ったみたいな優しさを無意識に求めていた。
今すぐにこの苦しみが少しでも和らぐ事を楽になりたいと心が欲していた。
俺が車を停めて、会いに行った相手は、孝之だった。
「佳祐…」
入ってきた俺をみた孝之は一瞬びっくりした表情だったが、すぐに笑顔に変わっていた。
あの日奈緒を迎えに行って以来孝之とは一度も顔を合わせておらず、連絡もしていなかった。
「元気だったか?久しぶりだな。」
俺は何も言わずに孝之の前の席に座ると呟くように言った。
「孝之…今夜だけ一緒にいてくれないか?」
そんな唐突な俺の言葉に孝之は拭いていたワイングラスを床に落とした。
ガラスが割れた音が鳴り響き、周りの店にいた客に軽く会釈する。
そして、飛び散ったガラスの破片をかがんで拾い上げながら、孝之は笑って俺に問いかける。
「佳祐…何があった?お前が俺にそんな事言うなんて、普通じゃねぇだろ?急に現れて、お前は俺をからかってるのか?」
どれだけお前は…といいかけて、それ以上の言葉を飲み込むかのように孝之は歯をぐっと食いしばり、俺の前にジュースを注いだグラスを差し出した。
「これは俺の奢りだ。今夜はずっとお前ととことん付き合うよ。ただ、俺の店ではお前に酒は出せない。俺は、お前の作った歌、また聞きたいって思ってるからな。」
そう言って孝之は店にあったレコード盤に裏から持ってきたレコードを走らせた。
その曲は俺が一番最初に出したデビュー曲だった。
当時のミュージシャンはCD盤もレコード盤も両方出している事が多く、今のように携帯から手軽にダウンロードなんてできなかったからだ。
単純に売り上げ全てが認知度を左右される時代で俺は、ただ自分の音楽が街や店で流れる度にガッツポーズして、静かに自分がうけいれられている事がすごく新鮮だった。
ただ、仕事に追われて家では電池が切れたように寝る毎日だったが、俺はずっと幸せそうに笑ってた。
流れている自分が作った歌が流れ終わった時、何かの糸が切れたみたいに俺の頬には一筋の涙が伝っていた。
「孝之、俺…こんな人生終わったってかまわねぇって思ってたはずなのに、すごく恐いんだ。」
「佳祐…」
「孝之、…俺…」
俺が次の言葉を伝えようと瞬間、孝之は周りの客が見ている中で、声をあげて泣きながら俺を抱きしめていた。
でも不思議と俺は、孝之の胸の中が心地良かった。
孝之のストレートな感情表現は懐かしくて、暖かくて、俺の感情を満たしていた。
「すみません。どうしても戻らないといけない急な打ち合わせが入ってしまって、すぐに事務所に帰らないといけなくなりました。また、次の機会に話し伺いますので、すぐ、何かあればいつでも連絡してください。」
江里は少し早口に小走りに帰っていった。
俺はその姿をただ黙って見送った後、気付いたら、車を走らせていた。
きっとぬるま湯に使ったみたいな優しさを無意識に求めていた。
今すぐにこの苦しみが少しでも和らぐ事を楽になりたいと心が欲していた。
俺が車を停めて、会いに行った相手は、孝之だった。
「佳祐…」
入ってきた俺をみた孝之は一瞬びっくりした表情だったが、すぐに笑顔に変わっていた。
あの日奈緒を迎えに行って以来孝之とは一度も顔を合わせておらず、連絡もしていなかった。
「元気だったか?久しぶりだな。」
俺は何も言わずに孝之の前の席に座ると呟くように言った。
「孝之…今夜だけ一緒にいてくれないか?」
そんな唐突な俺の言葉に孝之は拭いていたワイングラスを床に落とした。
ガラスが割れた音が鳴り響き、周りの店にいた客に軽く会釈する。
そして、飛び散ったガラスの破片をかがんで拾い上げながら、孝之は笑って俺に問いかける。
「佳祐…何があった?お前が俺にそんな事言うなんて、普通じゃねぇだろ?急に現れて、お前は俺をからかってるのか?」
どれだけお前は…といいかけて、それ以上の言葉を飲み込むかのように孝之は歯をぐっと食いしばり、俺の前にジュースを注いだグラスを差し出した。
「これは俺の奢りだ。今夜はずっとお前ととことん付き合うよ。ただ、俺の店ではお前に酒は出せない。俺は、お前の作った歌、また聞きたいって思ってるからな。」
そう言って孝之は店にあったレコード盤に裏から持ってきたレコードを走らせた。
その曲は俺が一番最初に出したデビュー曲だった。
当時のミュージシャンはCD盤もレコード盤も両方出している事が多く、今のように携帯から手軽にダウンロードなんてできなかったからだ。
単純に売り上げ全てが認知度を左右される時代で俺は、ただ自分の音楽が街や店で流れる度にガッツポーズして、静かに自分がうけいれられている事がすごく新鮮だった。
ただ、仕事に追われて家では電池が切れたように寝る毎日だったが、俺はずっと幸せそうに笑ってた。
流れている自分が作った歌が流れ終わった時、何かの糸が切れたみたいに俺の頬には一筋の涙が伝っていた。
「孝之、俺…こんな人生終わったってかまわねぇって思ってたはずなのに、すごく恐いんだ。」
「佳祐…」
「孝之、…俺…」
俺が次の言葉を伝えようと瞬間、孝之は周りの客が見ている中で、声をあげて泣きながら俺を抱きしめていた。
でも不思議と俺は、孝之の胸の中が心地良かった。
孝之のストレートな感情表現は懐かしくて、暖かくて、俺の感情を満たしていた。

