本当は怖い愛とロマンス

次に目を開けた時、ぼやけた狭い視界の中で女の姿が映る。
しばらくして、情景が鮮明になった時、そこにいたのは心配そうに俺を見つめる江里だった。
俺ははっきりと江里の姿が視界に映った瞬間、びっくりして寝ていた身体を咄嗟に起こす。

「なんで、お前がここにいるんだ?」

不安で仕方ない気持ちを隠す様に、口をついて出る言葉は、尖った優しさもない強がりな言葉だった。
俺の言葉を聞いた後、江里は軽く呆れた様にため息をつく。
黙って、冷蔵庫からペットボトルの水を差し出すと言った。

「私に電話くれたじゃないですか。本木さんが私に電話する事なんて只事じゃないと思ったから、気になって来ました。さっき来たら、たまたま家の玄関の鍵が開いてたので、勝手にあがらせてもらったらソファで倒れてる本木さんがいて、凄い熱があったから、色々買い出しして今帰ってきたんです。」

俺は差し出しされたペットボトルを受け取ると、一口流し込む。

「死にたくないって?何があったんですか?」

全てを打ち明けてしまおうか、絵里の心配する目を見た時、一瞬そんな考えが頭をよぎった。
真実を知れば、絵里は俺をどんな風にみるのだろうか。
哀れんだ目?
それとも他人の不幸を活力にする後者?
もしくは同情するのか?

俺の唇が動き始めようとした時だった。

携帯電話の着信音が部屋中に響き渡る。

「すみません…」

絵里はバツが悪そうな顔でリビングから携帯電話をもって席を外した。