松山が焦ってる。

そりゃそうだ。いきなり「殴れ」なんて言われても、対応できるような人はあまりいない。



でもそうでもしないと………


先輩の姿を見ただけで、邪念が心の中を渦巻く。




「桜井!」



松山が私を呼んだ。



「へ?………いっっ…つぅ!!」



おでこを抑えながら松山を見上げる。



「殴れないけど、これならできる。

……ちょっと強かったか?」



「……ふふ。何で後になって心配すんのさ〜。」



「いや、それは…えー…」



長い髪のウィッグをかきながら答えに悩む松山。


その姿は、女装しててもやっぱり松山で、優しさがにじみ出ていた。




「…ありがとう。」