「まだ話は終わってないぞ」

「私はもうありませんので」


てきぱきと、帰る支度をこなす。


「おい、ていうかまだ帰るなよ」

「……なんでですか」

「ケーキが、余ってる。」

「だ、からなんですか」


先輩がニヤリと笑う。


食べ物で釣るのか。

私がケーキ好きだと心得てのこと?

それならば、
どこまでせこい男だ!

この、ズル男め!だから嫌いなんだ。


「一緒に平らげるぞ」

「なら、持ち帰らせていただきます」

「……いや、まって」


先輩と食べるなんてとんでもない。だってムカつくから。


私になにか言いたげな先輩。

でも知らないふりだ。


「何が余ってますか?クリスマススペシャルイチゴショートケーキ、余ってますかね」


持ち帰ることは、この仕事の特権。

それを期待してはじめた仕事。


「余ってるわけないだろ」

「何が余ってるかなー……」

「おい」


さっき、最後にひとつだけ、クリスマススペシャルイチゴショートケーキが残っていた気がした。


先輩の言葉は全く聞こえなかったことにして、カウンターへと向かう。



「あ。あった」


なんだろうこの嬉しさ。


最後の一個。余り物。そして残り物には福がある。



「は、残ってたわけ?」

「ええ、残ってましたよ」


残っていた他のケーキも全て取り出す。