「…なんのために一緒に行ったのかと…男なら逃げるなと…」

「あいつ、そんな事言ったの?」

「…魔王さまは…本当は、…お優しい方です…」



リオンが肩を縮こませながらおずおずとそう言った。
優しい?
そんな言葉、一番不釣り合いじゃないか。

今まで、優しさなんて見たことなんてないし。
私が見たのは、残忍に人も魔物も殺していく血も涙もない姿だけ。
そして、その瞳がひどく冷たく刺すように痛いこと。




優しさなんて、知らない。




「本当です…。僕、…今朝…魔王さまにお伝えしていったんです…」

「なにを」

「これから、あの森に…芽衣子さまと行くと…」

「…」

「だから、…魔王さま、僕たちを追って…あの森に…」

「まさか」




そんなことあるわけないじゃない。
ああ、そうか。




「私が非常食だからね。そういえば、言ってたわ。非常食が他の誰かの手にかかるのは気に入らないって」

「違います。…そうじゃ、ないです…」





それ以外に考えられないじゃないの。
現に、あいつだってそう言ってた。
それが、事実だわ。