俺様魔王の甘い口づけ




「恐ろしいと思っただろう」

「…魔王になるための儀式のこと?」

「俺も、例に倣い前の魔王を殺した。この手にかけたのだ」

「うん…」




苦しかったのだろうか。
それとも、それさえも仕方ないと諦めていたのだろうか。



「…父は、本当に心の冷たい“魔王”に相応しい方だった。何事に心を揺さぶられることもなく、冷酷を素でいっている方」





私は、会ったことはない。
でもルイがそう言うならきっととても恐ろしい魔王だったんだろう。
ルイは、そんな父親を見て育ったんだね。




「父の事は尊敬していたし、その道を自分も歩むのだと…疑いもしなかった。それが当然の事だったからな」

「うん」

「だが…、俺は些細なことで心が揺らぐ弱い悪魔だった。しかし…、儀式を済ませた後、俺は自分の中に父と同じ冷酷さが生まれたことに気づいた。ようやく、父に近づけたのだと…」

「嬉しかったの?」

「そうだな。…だが、ずっと心の中にはどこか靄がかかっていた。それがなぜなのかわからぬまま…」



ルイが手を伸ばす。
その手の上にリスが飛び乗った。
ルイは目を見開いた後、その目を細め小さく微笑んだ。
一連の動作を見ていた私の胸は、ドキドキと高鳴る。



「芽衣子に出会って、他の人間とは違う反応をされ…。最初は変な人間だ、くらいにしか思っていなかった」