「けど」

言いかけて、私は止まった。

「けど、知っていたなら、どうして私と離婚しようとしなかったんだ?」

私は言った。

自分の夫と娘が愛し合っていたら、妻は2人を引き離す立場にあたる。

なのに、どうして私と離婚せず、そのまま黙って見ていたのか。

それは、おかしいんじゃないのか?

朝香は照れくさそうに微笑むと、
「あなたが、そばにいてくれたからよ」
と、言った。

「優衣と何があっても、あなたはずっと、私のそばにいてくれたじゃない。

あなたこそ、離婚しようとしなかったことが不思議よ」

「……そう、か」

何だか、照れくさかった。

「優衣が、好きなんでしょ?」

朝香が言った。

「好きなら…愛し合っているなら、幸せにしてあげて」

私は目を見開く。

「妻の私が言うのも、何だか変だけど、優衣を幸せにしてあげて」

私は微笑むと、
「約束する」
と、言った。

「ただし、優衣が大学を卒業してからよ?」

「わかった」

予想外の展開だったが、それでもよかった。

交際も結婚も許してもらえたこと。

私にとって、何よりの幸せだった。