「……優衣と、つきあっているの?」

朝香が聞いた。

私はうつむいたまま、うなずいた。

ため息をつく、朝香の息の音。

人がはっきりとため息をつく音を聞いたのは、これが初めてだったかも知れない。

「……やっぱりそうだったのね」

えっ?

予想外の答えに、私は顔をあげた。

「私が知らないとでも、思っていたの?」

どういうことだろう?

「私は、あなたの妻で、優衣の母親よ。

夫と娘のことを知らない妻と母親なんて、この世にいないでしょ?」

「……知って、いたのか?」

初めて声が出せたような気がした。

「当たり前よ。

結婚する3日前にあなたと優衣が出会っていたことも、ひかれ合っていたことも、つきあっていたことも、私は全部知ってたわ」

私はうつむく。

今度は、恥じらいの意味で。

「夏の演奏会の時に優衣があなたのところに行ったことも、みんな知ってるわ」

そこまで知っていたとは……。

女の勘は偉大だ。

しかも、朝香は雑誌記者。

なおさら、偉大過ぎる。