「ごゆっくりどうぞ」

ウエイターが去って行った。

「……朝香?」

私は名前を呼んだ。

「……んー……?」

朝香が顔をあげる。

「あ、来たの?」

「……まあ。

優衣ちゃんから話は聞いたよ」

“優衣ちゃん”――久しぶりに呼ぶため、少し抵抗があった。

「……そう」

再び朝香が寝ようとしたので、私は起こした。

起こすと私は、
「あのさ、さっきのウエイターだけど、会ったことあるかな?」
と、聞いた。

「ウエイター?

……ああ、あの子ね」

あの子と言ったのと同時に、あの日の出来事が蘇った。

あの日――優衣の卒業式の時。

食事に行こうとした私と優衣が見た、朝香と一緒に歩いていた男。

その男の顔は、さっき会ったウエイターとそっくりだった。

あの子ってことは、朝香の知り合いか誰かか?

そう考える私に対し、朝香の唇が動いた。

「あの子、私の甥っ子なの」

甥っ子。

確かにここは、朝香の親戚が経営するレストランだ。