演奏が、中々耳に入らなかった。

昨夜の優衣の声が耳から離れられなかった。

逢いたい…。

プログラムと演奏者を代わる代わる見ながら、私は思っていた。

私は、こんなにも欲深かったっけ?


審査員らの話し合いが終わった時、私は疲れていた。

疲れた躰を引きずりながら、廊下を歩くのがやっとだった。

明日、演奏会が終わる。

やっと、優衣に逢える――。

そう思って、部屋の前についた時、
「誠司さん?」
と、誰かに声をかけられた。

「…優衣」

私の目の前に、優衣がいた。

「どう、して…?」

私は驚きを隠せない。

「逢いたかったから、来たんです」

優衣が言った。

私は人目がないことを確認すると、優衣を部屋の中に入れた。

ドアに鍵をかけたのとほぼ同時に、彼女が唇を重ねてきた。

私はその口づけを受け入れる。