翌朝。

日が昇っていない時間に、私は出発した。

人通りが少ない高速道路を走りながら、ラジオを聴いていた。

流れていた曲は、“よろしく哀愁”。

『逢えない時間は、愛育てるのさ』

“育てる”、か――。

普通の恋人同士が、できるもの。

私たちみたいに、“罪”と“毒”を持っている者は、それができない。


日が昇った時間に、私は着いた。

今夜泊まるホテルの駐車場に車を止め、荷物を持って、車を降りた。

降りたとたん、ムッとした暑い空気が、私を包んだ。

ジャケットを脱ぎたくなった。

暑い暑いと呟きながら、私は演奏会の会場に向かった。

会場は暑い外とは逆に、冷房が効いていた。

思わず震えた。

躰から噴き出た汗が、一気に引いて行くのがわかった。

凍死させる気かと、私は思った。

血管が収縮して、ちぎれてしまうかと思うくらい寒かった。