夏がきた。

私がちょっと嫌いなこの季節。

何故なら、私がいなくなってしまうから。

理由は、演奏会があるから。

この演奏会は、プロを目指す若者が集まる、いわば“登竜門”みたいなもの。

毎年私は審査員として、これに招かれていた。

今年ばかりは断わろうかと思っていたが、周囲の目もあり、結局参加することになった。


「演奏会?」

優衣が言った。

「3日ほど、家をあけるから」

みそ汁をすすりながら、私は言った。

優衣は困ったように、自分の箸の先を眺めた。

数秒くらい眺めた後で微笑むと、
「頑張ってください」
と、言った。

寂しいのだ、本当は。

私の方が、何倍も寂しい。

お前がいないから――。