「…あなたでいいんです」

優衣が言った。

「誠司さんは、わたしが好きになった人だから」

優衣が私の肩に顔を埋めた。

「優衣ちゃん…」

「“優衣”って呼んでください」

肩に顔を埋めたまま、優衣が言った。

「…優衣」

私は呼んだ。

優衣が唇を重ねた。

その行為は、毒を飲ませているのと同じような気がした。

“罪”と言う名の甘い毒を。

苦みと痛みのない、その毒を。

私たちのような犯罪者は、互いの唇に毒を注ぎあっていることがふさわしいような気がした。

“父娘”の掟に反した私たちは、毒を飲み合った。

死ぬことがない、快楽だけの甘い毒。

愛し合ったと言う罪は、甘い毒とよく似ているような気がした。

優衣が唇を離した。